今冬のインフルエンザ大流行を懸念する声が…医師が解説

人出が戻ってきた
人出が戻ってきた(C)日刊ゲンダイ

 64歳以下の新型コロナワクチン接種が進み、職域接種も始まった。菅首相が目指した「1日100万回接種」も達成、6月21日現在、累計接種数は3290万回にまで伸びた。副反応や長期的な影響を気にして接種に消極的な人もいるが、徐々に「自由な生活を取り戻せる」と接種を歓迎する人が増えている。そんななか国内外の医療関係者から今年の冬を心配する声が上がり始めている。鳴りを潜めていたインフルエンザが猛威を振るうのではないか、というのだ。

「今年はインフルエンザが大流行するのではないか、と心配しています」

 こう言うのは弘邦医院(東京・葛西)の林雅之院長だ。

 国内で毎年1000万人の感染者が報告されるインフルエンザだが、新型コロナウイルスの感染拡大とともにその数が大きく減った。例えば、3月12日に厚労省健康局結核感染症課が公表した「インフルエンザ様疾患発生報告(第27報)」によると、3月1~7日の保育所、幼稚園、小学校、中学校、高等学校でのインフルエンザ様患者数は0人。昨年同期は2万5136人だから、その激減ぶりがわかる。

 それがなぜ、いまインフルエンザの脅威が語られるのか? その理由のひとつにウイルス干渉がある。昨年は新型コロナウイルスの活動が活発でインフルエンザウイルスの動きを抑えつけていたが、ワクチン接種で新型コロナの動きが抑えつけられれば、インフルエンザウイルスが暴れ出すのではないか、というのだ。

「あるウイルスが流行すると他のウイルスが流行しないことを『ウイルス干渉』と言います。あるウイルスが先に感染すると宿主に吸着するためのレセプター(受容体)が独占されたり、感染による免疫応答などにより他のウイルスは感染しづらくなるからです。例えば風邪の原因であるライノウイルスは年中流行しますが、インフルエンザウイルスが流行する冬は感染者が減ることが知られています」(林院長)

■ヒトの免疫が弱体化している可能性

 また、世界中で行われているマスク、手洗い、ソーシャルディスタンスなどの新型コロナ対策はインフルエンザの感染拡大防止にも役立ってきた。ところが、ワクチン接種で安心した人が旅行したり、大声でしゃべったり、マスクなしで自由に行動したりすると、新型コロナは抑えられてもインフルエンザ感染は広がる可能性がある。

「インフルエンザウイルスは新型コロナに滅ぼされたわけでなく、活動を一時停止したに過ぎません。ところがインフルエンザウイルスに対するヒトの免疫は、昨シーズンの後半、今シーズンとインフルエンザウイルスにさらされなかったことで、すっかり弱体化している可能性があります。ヒトの免疫はシーズンごとにウイルスにさらされることで自然に高まると考えられているからです。そのため、インフルエンザウイルスがいったん動き出すと鍛えられていないヒトの免疫の壁をウイルスがやすやすと乗り越えて例年以上に早く感染し、重症化しやすい状況が出てくると考えられるのです」(林院長)

 同じような考え方をする人は海外にもいる。

 世界的に有名な小児病院である、米国メンフィスにあるセントジュード小児研究病院のインフルエンザ専門医のリチャード・ウェビー氏だ。6月上旬のCNNのインタビューに「史上最悪のインフルエンザシーズンが来るかもしれない」と答えている。

 気になるのはインフルエンザの動きだけではない。昨年はほぼゼロだったRSウイルス感染症がここにきて激増していることだ。

 RSウイルス感染症は呼吸器の病気で、大人から子供まで感染する季節性の風邪。乳幼児など年齢の低い子供は肺炎を併発することがある。今年5月ごろから全国から感染の報告が増えている。

 その理由は不明だが、新型コロナの感染予防を徹底していた昨年には感染しなかった乳幼児も今年感染しているケースもあることから、新型コロナの感染予防対策が緩んだことで感染が増えたのではないか、との見方も少なくない。

 ワクチンの接種で新型コロナの感染リスク、重症化リスクは低下するだろうが、感染対策をおろそかにしていいわけではない。接種しても同じように飛沫などで感染するインフルエンザなどの呼吸器系の脅威から逃れられるわけではないのだ。

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