病気を近づけない体のメンテナンス

のど<上>呼吸力を鍛える神様体操と誤嚥を防ぐ首ストレッチ

誤嚥を防ぐには首のストレッチが有効
誤嚥を防ぐには首のストレッチが有効

 のどは、酸素を体に取り入れて二酸化炭素を排出するための「呼吸」、食べ物をのみ込む「嚥下」、それからコミュニケーションに欠かせない「発声」に関わる重要な器官。その衰え方には個人差はあるものの、のどの力は40~50代から衰え始める。

 しかし、のどの衰えは健康診断では見つけられないし、足腰の衰えのような自覚もしにくい。放置していると徐々に肺炎のリスクを高め、寿命を縮めてしまう。大手民間病院グループ「カマチグループ」のリハビリテーション関東統括本部長である稲川利光医師が言う。

「年代別に見ると70代に入ったあたりから肺炎で亡くなる人の割合がぐっと増えます。原因はのどの力の衰えです。高齢者の肺炎の原因の60~80%は誤嚥性肺炎だとされます。誤嚥とは、本来なら食道に送られるべき飲食物や唾液が気管や肺に入ってしまうことです。この誤嚥によって細菌が肺に入り肺炎を起こすのです。誤嚥したからといって、すぐに肺炎が起こるわけではありませんが、のどの力が衰えて頻繁に誤嚥するようになると、高齢者だと健康寿命は短くなり、命を失うことにもなります」

 その誤嚥を防ぐためにも、のどの力が衰え始める年代から嚥下機能や呼吸機能を鍛えるトレーニングを心がけた方がいい。最近、「よくむせる」「口の中が乾く」「声が出しにくい」人は、のどが衰えている可能性が高いので要注意だという。

 では、どのようなトレーニングをすると、誤嚥を防ぐ“のどのケア”になるのか。

 稲川医師にいくつか紹介してもらった。

「呼吸は、肺の周辺にある『呼吸筋』という複数の筋肉の収縮によって行われます。呼吸筋が衰えれば当然、『呼吸力』が衰えます。呼吸力は『咳をする力』とも深い関係があります。痰を体外に出すのにも咳の力が必要ですし、咳は誤嚥で咽頭や気管内に入ってきた食物や水分を排出する役割も果たしています。将来の誤嚥を予防するためにも、呼吸筋が衰えないように鼻呼吸を習慣にし、ウオーキングなどの有酸素運動に取り組むのがいいのです」

 呼吸力を鍛えるには「腹式呼吸」を意識して行うことも有効で、呼吸筋の中でも最も重要な横隔膜や肋間筋のトレーニングになる体操もある。やり方はこうだ。

■呼吸力を鍛える神様体操

 ①鼻から息を吸いながら、胸を大きく広げ、両手を開いてなるべく高く持ち上げる(10秒ほどキープ)②十分にキープしたら、口から息を吐きながら、お辞儀をするように両手を前に下ろし、しっかり息を吐き切る。

 ①と②を10回繰り返す。両腕の運動に合わせて左右の肩甲骨がよく動くことがポイント。胸が膨らんだり縮んだり、その柔軟性を意識しながら行う。

 首の動きが悪くなると、食事の際に顎を引いた姿勢を取るのが難しくなって誤嚥しやすくなる。そのような人におすすめなのが次の体操だ。

■呼吸をしやすくする首のストレッチ

 ①《頭を前に倒す》肩の力を抜き、口を閉じる。頭の後ろに両手を添える。腕の重さを利用しながら、ゆっくり頭を前方に倒す。首の後ろに伸びを感じたところで10秒キープする②《頭を後ろに倒す》肩の力を抜き、口を閉じる。ゆっくり頭を後方に倒し、首の前側を伸ばす。伸びを感じたところで10秒キープする③《頭を左右に倒す》肩の力を抜き、口を閉じる。頭をゆっくり左側に倒し、首の右側を伸ばす。伸びを感じたところで10秒キープする。次に同じように頭を右側に倒し、10秒キープする④《頭を斜め前方に倒す》肩の力を抜き、口を閉じる。右手を後頭部に添える。頭をゆっくり右斜め前方に倒し、首の後ろの左側を伸ばす。伸びを感じたところで10秒キープ。次に左手を後頭部に添え、頭を左斜め前方に倒し、頭の後ろの右側を伸ばす⑤《首を左右にねじる》肩の力を抜き、口を閉じる。首を左にねじり、頭だけを左に向けて10秒キープする。次に同じように首を右にねじり、頭だけを右に向けて10秒キープする。

 ①~⑤を2セット、1日数回行う。

「のどの力が衰えると、のどぼとけの位置が下がります。それは喉頭を持ち上げる筋肉の力が弱くなるからです。すると気道の入り口を塞ぐ喉頭蓋が閉まるのが遅れたり、閉まり切らなかったりして誤嚥しやすくなります。そのような人にも『首のストレッチ』は有効です」

 次回は「のみ込みを良くする」トレーニングを紹介してもらう。

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