「家庭血圧」は「病院血圧」よりも脳卒中発症リスクの確認に役立つ

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「診察室や健診で測定される随時血圧よりも、家庭血圧の方が脳卒中の発症リスクと強く関連することが研究で明らかになっています」。こう話すのは、10年以上も家庭血圧や薬物療法を研究している東北医科薬科大学医学部衛生学・公衆衛生学教室の佐藤倫広助教。詳しく聞いた。

 佐藤助教は、1986年に開始された大迫研究の解析に関わっている。

 大迫研究では、①診察室や健診で測定した血圧(随時血圧)②家庭血圧③24時間血圧の3種類の血圧で研究対象者を詳細に分類し、脳卒中発症リスクを比較。すると、①~③が全て非高血圧だった人に比べ、①のみ高血圧だった人の脳卒中発症リスクは明瞭に高くはなかった。一方、①が高血圧で②と③が高血圧の「部分白衣高血圧」は脳卒中発症リスクが約2倍だった。また、①が非高血圧であっても、②または③が高血圧の「部分仮面高血圧」の脳卒中発症リスクも高かった。

 つまり、診察室や健診での血圧が高血圧かどうかにかかわらず、医療環境下ではない状況で測定される血圧が大切だということ。

「さらに、24時間血圧は一日の血圧の変動が見られるものの、現状は専門の医療機関でないと測定できない上、測定日だけの血圧情報です。一方、家庭血圧は血圧を自分で連日測定できることが強み。脳卒中の発症リスクを正確に予測でき、かつ血圧の季節変動や加齢に伴う血圧の上昇をより手軽に把握できます」

 家庭血圧と随時血圧を直接比較した別の大迫研究の結果でも、家庭血圧の上昇に伴い脳卒中リスクが上昇したが、随時血圧と脳卒中リスクは強く関連していなかった。

 では、なぜ家庭血圧が、随時血圧よりも脳卒中の発症リスクと強く関連しているのか?

「診察室で測定される随時血圧は、緊張などによる一時的な血圧上昇だけを反映していることがあり、これを“白衣効果”といいます。自分の普段の血圧を知るには、家庭血圧が欠かせない」

 血圧は低いほど脳卒中のリスクが低くなるので、「診察室の血圧で『高血圧』と診断され、降圧治療を受けているが、実は家庭では正常血圧だった」という白衣高血圧の状態なら、まだいいかもしれない。問題は、仮面高血圧だ。

「家庭や職場でストレスを抱えている人や喫煙者も仮面高血圧になりやすいといわれています。また、血圧の薬を服用している人は、朝に薬を飲み血圧が低くなった状態で受診するので、診察室では血圧が一時的に低くなり、コントロール不良仮面高血圧という状態になっていることも多い」

 本当は治療が必要、または薬の追加や変更が必要なのに、それが行われていないとなれば、脳卒中の発症リスクが高くなるのは当然だ。

■家庭血圧は認知機能にも関連


 大迫研究では、家庭血圧と認知機能との関連も検討。平均7.8年の追跡データを解析したところ、家庭収縮期血圧(上の血圧)が15㎜Hg上がるごとに、高血圧未治療者の認知機能低下リスクは2.8倍高くなった。

 メカニズムの詳細は分かっていないが、家庭血圧の日々の変動が大きいほど認知機能低下リスクが高いという結果もある。

「何をおいても、家庭血圧を測定するべき。若い世代ほど血圧が脳卒中発症リスクに与える影響は大きい。一方で若い世代ほど血圧への関心が低い。血圧が高血圧でも様子見のケースが多く、高血圧治療率も低い。家庭血圧測定がもっと若い世代に広まることが、長期的な日本の健康寿命の延伸に不可欠です」

 佐藤助教自身、30代だが、家庭血圧で高血圧と判明し、治療を開始しているという。脳卒中は命が助かっても後遺症という問題がある。転ばぬ先の杖、に家庭血圧がなる。

■大迫研究とは

 岩手県大迫町(現・花巻市)の住民に血圧を測定してもらい、高血圧・循環器疾患の発症との関連を調べた長期前向きコホート研究。

 家庭にて自分で測定する家庭血圧と、24時間自由行動下血圧(24時間血圧)を用いた世界初の住民ベースの疫学研究でもある。

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