Dr.中川 がんサバイバーの知恵

演歌歌手・三沢あけみさんは2つのがんを克服 検診と「一がん息災」

三沢あけみさん
三沢あけみさん(C)日刊ゲンダイ

 理想は無病息災でしょうが、一病息災も悪くありません。それが、がんであってもです。

 歌手の三沢あけみさん(76)がテレビ番組で自らのがん経験を語り、話題を呼んでいます。10年前に乳がん、3年前に肺がんを患っていたそうです。

 最初の乳がんについては、がん検診を受けていたことでたまたま見つかったそうです。「針みたいなのをやって」と報じられているのは、針生検のことでしょう。

 マンモグラフィーや超音波などの画像検査で乳がんが疑われると、がん細胞の有無を調べる病理検査が行われます。しこりに細い針を刺して注射器で一部を吸引したり、乳頭などの分泌物を採取したりする細胞診が一つで、もう一つは、細胞診よりも太い針でより広範囲な細胞を採取する針生検です。

 細胞診は比較的簡単ですが、採取の量が少ないと正しく診断できない恐れがあります。その点、針生検は、がんがあるかどうか確実に診断でき、さらにがんの悪性度や乳がんのタイプもチェック可能ですから、恐らく後者でしょう。

 一方、肺がんは3年前の人間ドックがキッカケだったそうです。報道から推測すると、X線やCTなどの画像検査で異常を指摘され、異常が認められる部位から組織を採取して確定したとみられます。

 三沢さんが患った肺腺がんというタイプは、たばことの関係が薄く、肺の奥にある肺胞の周りにできるため、X線で発見しやすいのが特徴。今や男性の4割、女性の7割がこのタイプですから、侮れません。

 三沢さんは胸腔鏡手術で切除したそうです。胸に3つか4つの小さな穴を開けて手術器具やカメラなどを挿入して腫瘍を摘出する方法で、メスで胸を開くよりも肉体のダメージが少なく回復が早い。三沢さんは「次の日は歩ける状況ぐらいに」なったといいます。

 この回復ぶりからすると、肺は全摘ではなく、肺葉切除か部分切除でしょう。これなら、呼吸機能は切除前の80%程度とされ、歌手活動も可能です。同じ肺腺がんを切除したLUNA SEAのボーカル河村隆一さん(51)も、歌手活動を再開していますから。

 一度がんになったら、二度とゴメンだ。そう思う気持ちは分からなくもありませんが、一度がんになった方はその後の経過観察をしっかりと行って、経過観察期間を終えても毎年のがん検診や人間ドックなどをきちんと受けることが珍しくありません。それで、転移や新たながんが早期に発見されやすいのです。それが、一がん息災。

 三沢さんも強調されているように検診をきちんと受けることが、一がん息災の第一歩です。皆さんもこれを心掛けてください。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

関連記事