進化する糖尿病治療法

どんなに食事に気を付けていてもLDLコレステロールは劇的には下がらない

写真はイメージ
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「食事にも気を付けているし、週3回はジョギングをし、スポーツジムにも通って運動をしているのに、悪玉コレステロールが下がりません。薬を飲みたくないので、なんとか下げたいのですが」

 40歳の男性は、昨年の健康診断でLDLコレステロールが150㎎/デシリットルという結果が出ました。LDLコレステロールは「悪玉コレステロール」と呼ばれているもので、140㎎/デシリットル以上で「高い」と診断されます。

 会社近くの医療機関で再検査を受けても、LDLコレステロールはやはり140㎎/デシリットルを超えており、「高い」との診断。ただ、中性脂肪は低く、高血圧、糖尿病、過去の心筋梗塞などがなく、動脈硬化にかかわる数値はすべて正常範囲内でした。

 男性は奥さんと相談し、一緒にスポーツジムに入会。皇居のジョギングを週末行っている友人のグループにも参加させてもらい、ジョギングも始めました。

 もともとテニスやスキーが好きなアクティブなタイプで、体を動かすことには抵抗がなかったそうです。

 食事内容も見直しました。といっても、話を聞くと、脂質をそうたくさん取っているわけでもなし、糖質に偏った食事をしているわけでもない。

 奥さんがいわゆる健康オタクで、比較的バランスの取れた食生活を普段から送っており、気を付けたのは、「週1回は休肝日を設ける」と「夜はご飯ものは食べない、食べても軽めに」程度。

 しかし、今年の健康診断でもLDLコレステロールは高めでした。ただ、前回より上がりもしていない。動脈硬化に関係するほかの数値はすべて正常範囲というのも変わっていない。「LDLコレステロールを下げるために、あとは何をすればいいんでしょうか?」と男性。

 コレステロール(LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪)は、細胞膜やステロイドホルモンの成分になるため、人間が生きていく上で欠かせない脂質です。

 しかし、コレステロールの血中濃度が高くなると、動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳卒中などの発症リスクを高めます。特に、LDLコレステロールが高く中性脂肪も高いとなると、LDLの中でも小型で比重の高いLDL(small dense LDL)、別名「超悪玉」が発生し、正常サイズのLDLよりも強力に動脈硬化を引き起こすことがわかっています。

 それを回避するために「食事内容を見直しましょう」などと言われたりするのですが、実はコレステロールに関しては、食事を見直してもあまり効果がありません。

 人間の体内に存在するコレステロールの7~8割が肝臓で合成されるため、食事にどんなに気を付けても、数値は劇的に変化しません。

 鶏卵や魚卵を多く取るとLDLコレステロールが一気に上昇する遺伝的体質を持った人もいるものの、大半の人において、食事がコレステロールの上下に与える影響はわずかです。

 運動も、肥満の人が運動で痩せればコレステロールの数値が多少改善するケースがあります。しかし、標準体形の人、痩せ形の人が適度に運動をしても、やはりコレステロールが劇的に下がることはないのです。

 コレステロールは体質の影響が大きい。だからコレステロールが高い場合、最もいい対策は薬を飲むことになります。血圧や血糖値は強力な薬で下げすぎてしまうと体へ弊害があります。

 一方、LDLコレステロールは弊害になるレベルまで下げられる薬はありません。

 副作用も、筋肉痛が起こった時に筋肉が破壊しやすくなるなどが報告されていますが、LDLコレステロールが高いまま放置した場合のリスクを考えると、薬による治療を優先すべきです。

 冒頭の男性の場合、中性脂肪のほか動脈硬化に関する数値が低いため、薬はまだ必要ないでしょう。しかし、LDLコレステロールは食事では下がらないのですから、今後、他の数値に変化が見られたら、薬について考えてみるべき、と伝えました。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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