がんと向き合い生きていく

ホコリがつく千羽鶴は白血病患者の病室には持ち込めないと言われ…

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 翌日、S子さんは学校でコーラス部の友人に折り鶴の話をしてみました。すぐに折り方を知りたいと、5人の同級生に広がります。そして3週間後の夕方、たくさんの束になった千羽鶴を、同級生3人でAさんの自宅に届けました。

 Aさんのお母さんはとても喜んで、翌日、入院中のAさんに届けると約束してくれました。

 その日になって、お母さんが千羽鶴を病院へ持ち込むと、担当の看護師さんは困った顔で言います。

「病室はきれいな空気になるようにしてあります。千羽鶴はホコリがつきますからね。白血球が減ると、肺炎を起こしやすくなるので、患者さんのそばには置けないのです」

 お母さんは、病室の窓から見える廊下にでも置けないかと粘ってみましたが、やはりダメで千羽鶴は仕方なく持ち帰りました。

 そう言われてみれば、よほどのことがないとAさんの病室には誰も入れなくなっています。お母さんがAさんに会う時は、まず準備室で帽子をかぶり、マスクをつけ、ガウンを着てから入室する手順になっていました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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