高齢者の正しいクスリとの付き合い方

投与量の調節が大ざっぱな経口糖尿病薬は低血糖を起こしやすい

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 誤解を恐れずに言うと、「低血糖」は一度経験しておいたほうが良いかもしれません。それも入院(糖尿病の教育入院)中がベストです。自分がどのような症状を起こすかの傾向がわかることで将来的に対処しやすくなりますし、入院中であればすぐ近くに医療スタッフがいるのでより安心です。

 糖尿病のクスリには経口糖尿病薬とインスリンがありますが、低血糖を起こしやすいのはどちらでしょう? 意外に思われるかもしれませんが、低血糖を起こしやすいのは経口糖尿病薬なのです。

 経口糖尿病薬の量を調節するときは、だいたい「1錠」や「2錠」といった感じで行うのですが、実はこれ結構大ざっぱな調節です。たとえば、1錠あたりクスリの成分が50ミリグラム含まれているとすると、2錠にすると100ミリグラムまで増えることになります。

 それに対し、インスリンは1単位(単位:インスリンの量を表します)ずつ非常に細やかな調節が可能で、しかも朝・昼・夜それぞれに最適な単位数の設定ができます。インスリンは注射しなければいけないため、あまり良い印象を持っていない方も多くいらっしゃるかと思いますが、実際は経口糖尿病薬に比べて低血糖を起こすリスクが低く、体の調子に合わせて量をぴったり合わせられるクスリなのです。

 また、糖尿病の治療中に発熱、下痢、嘔吐など体調の悪化によって食事の摂取量が少なくなってしまうと、当然低血糖を起こすリスクが高まります。場合によっては血糖値が上昇することもありますが、簡単に言えば、体調が悪化すると血糖コントロールが難しくなるのです。こういった状態のことを「シックデー」といい、十分な注意が必要です。シックデーへの対応は人それぞれなので、事前に主治医に相談して、どのように対応すべきなのかを聞いておきましょう。そして、万が一シックデーになった場合には、できるだけ早く主治医に連絡を取ることも重要です。

 もうひとつ知っておいていただきたいのは、アルコールを飲むと低血糖のリスクが高まることです。糖分は体内でも作られるのですが、アルコールはそれを邪魔してしまうからです。お酒を飲んだ後で“シメ”のラーメンを食べたくなるのは、無意識的に低血糖を予防しているのです。糖尿病の治療をしている方はアルコールを摂取しないと信じていますが、こういったことも注意しましょう。

 糖尿病は生活習慣の改善や薬物療法によって十分コントロール可能な病気です。逆にコントロールが不十分だと、将来的に動脈硬化や腎不全など合併症の原因になってしまいます。ご自身に処方されているクスリの種類と、それはどのような効き方をしているのか、そして低血糖やシックデー時の対処法を十分理解して、安全かつ効果的に治療していきましょう。

東敬一朗

東敬一朗

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

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