肥満を加速・悪化させる「メタボ炎症」の恐怖から逃れるには…

 ここ数年、医師や研究者の間で注目を集めているものがある。それが「慢性炎症」だ。というのも、さまざまな研究の結果、多くの病気を引き起こすもととなっているのが慢性炎症であることが明らかになってきたからだ。そこで、この慢性炎症について取材してみた。

■自覚症状のない「サイレントキラー」

 慢性炎症とは炎症が体内でジワジワと長期にわたって続く状態を指す。ケガをしたり細菌やウイルスに感染した時などに体内に入ってくる異物を排除しようとして起こる急性炎症が腫れや痛み、発熱、発赤などといった症状を伴うのに対して慢性炎症は自覚症状がないというのが大きな特徴となっている。

 しかし、自覚症状がないからといって慢性炎症を甘く見てはいけない。というのは、最近のさまざまな研究の結果、日本人の3大死因とされる、がん、心疾患、脳血管疾患はもとより糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病、さらにはアルツハイマー病、うつ病などの神経系疾患も慢性炎症によって引き起こされることが明らかになってきたからだ。まさに「静かに忍び寄る万病のもと」「新時代のサイレントキラー」といってもいいのが慢性炎症なのだ。

■たまった脂肪が「メタボ炎症」を引き起こす

 では、慢性炎症はどうして起こるのか? 慢性炎症に詳しい内科医の工藤孝文先生(みやま市工藤内科院長)に聞いてみた。

「実は慢性炎症には体内の脂肪が大きく関わっているのです。脂肪は人間にとって必要なものですが、それでも過剰にため込んでしまうと慢性炎症を引き起こして健康を害する原因となります。特に内臓の周りにある脂肪組織、これは内臓脂肪と呼ばれていますが、内臓脂肪が多くなるとここから慢性炎症が起きて糖尿病や高血圧、脂質異常症、がんなどを誘発するといわれています。つまり、慢性炎症と肥満、脂肪は密接に関係していて、その意味で慢性炎症=メタボ炎症と捉えるとわかりやすいでしょう」

 前述したように慢性炎症には自覚症状がないので、自分が今、慢性炎症に陥っているかどうかを知ることはなかなか難しい。脂肪に対する対策をしているにも関わらず「最近ズボンがきつくなってきた」「痩せにくくなってきた」「お腹がぽっこりしてきた」などといった体の変化があれば疑ったほうがいい。そして、心配なら健康診断や人間ドックの時にMRIやCTでお腹周りの脂肪の体積をチェックしてみることが大切だ。

みやま市工藤内科 工藤孝文院長

■「負のスパイラル」が加速して病気を発症

 慢性炎症がとりわけ厄介なのは、蓄積された内臓脂肪が肥大化するとインスリンの出が悪くなって血糖値が上昇、さらには脂肪が蓄積されるとともに脂肪細胞から出る生理活性物質が脳に作用して過食による摂取量を増やし、脂肪組織の炎症がますます進むという「負のスパイラル」を加速させてしまう恐れがあるからだ。しかも、一度そのスパイラルに巻き込まれてしまうと、そこから抜け出すのは容易ではないというから困ったものだ。

 また、基礎代謝が落ちてくる40代になると内臓脂肪がたまりやすくなりメタボ体質になりがちだ。だから、例えば若い頃と同じように食べているとカロリーオーバーとなって肥満に結びついてしまうので注意が必要だ。

■腸から慢性炎症を予防する

 慢性炎症を防ぐためには食事や運動、ストレスなどの生活習慣を見直し、肥満を予防すること、それが何よりも大切だ。加えて工藤先生が声を大にしていうのが「腸から慢性炎症を予防する」ということだ。

「以前はお腹の脂肪からの慢性炎症ばかりが話題になっていましたが、最近では腸の状態が悪くなるとそこから肝臓や心臓、すい臓などさまざまな臓器へと伝わって動脈硬化や糖尿病、脂肪肝などを引き起こすという腸から始まる慢性炎症の弊害が大きくクローズアップされています。ですから、常日頃から腸の状態を良好に保つことはとても大事で、そのためにはヨーグルトのような腸内の善玉菌を増やすもの、それに加えて善玉菌のエサになる食物繊維をしっかり摂るように心がけるのがいいでしょうね」

 ヨーグルトに関連した最近の研究では、肥満傾向のある人に、一定期間MI-2乳酸菌を摂ってもらったところ、炎症を示すマーカーの数値が有意に下るとともに、腹部総脂肪面積が減ったという発表もあるようだ。

 多くの病気は慢性炎症から始まる。ということは、慢性炎症を防ぐことができれば病気のリスクを回避できるわけだ。それだけに慢性炎症のことをきちんと理解し、その予防をしっかりやりたいものだ。