母子の命を守るために男性も知っておきたい「妊娠高血圧症候群」

妊婦本人以外の喫煙にもリスクが…
妊婦本人以外の喫煙にもリスクが…

 妊娠中に受動喫煙をすると、妊婦自身がたばこを吸うよりも「妊娠高血圧症候群(HDP)」の発症リスクを高める──。今年2月、そんな研究結果が東北医科薬科大学から報告された。かつて妊娠中毒症と呼ばれていた病態で、妊婦の5~10%が発症するとされている。脳や腎臓など全身に合併症を引き起こし、母体や新生児が死亡する危険がある。妻や娘が発症するリスクも考えて、男性も知っておいた方がいい。同大学医学部衛生学・公衆衛生学教室教授の目時弘仁氏に詳しく聞いた。

「今回、妊婦さんを対象に行った研究で、妊婦さん自身の喫煙によって引き起こされた妊娠高血圧症候群の割合は1.8%だったのに対し、非喫煙者で週に何度も受動喫煙にさらされて引き起こされた妊娠高血圧症候群の割合は3.8%と、受動喫煙のほうが約2倍高いという結果が明らかになりました。そのため、妊婦さん自身の禁煙対策だけでなく、受動喫煙の対策も必要です」

 妊娠中の喫煙は死産や早産、妊娠高血圧症候群発症のリスクを高めるため、妊娠が分かった時点で禁煙指導が行われている。

 妊娠中に喫煙していた妊婦から生まれた子供は喘息になる確率が1.7倍上がるとの研究結果があることからも、禁煙は大切だ。

 さらに今回の研究で妊婦本人以外の喫煙にもリスクがあると判明した。喫煙時に喫煙者自身が吸う主流煙よりも、加熱部から発生する副流煙のほうがより有害物質が多く含まれるといわれている。この副流煙を吸うと、ニコチンが持つ血管収縮作用が働いて高血圧になると考えられている。

「家族に妊婦さんがいる場合には、妊婦さんの前ではたばこは吸わないでください。可能であれば禁煙するといいでしょう。喫煙から1時間程度はたばこの有害物質が吐息に含まれるとされるので、目の前で吸わなくても受動喫煙させてしまう可能性があります」

■年間5万~10万人が発症

 妊娠高血圧症候群とは、妊娠中に収縮期血圧が140㎜Hg以上、拡張期血圧が90㎜Hg以上の高血圧、またはこの高血圧にタンパク尿(1日300ミリグラム以上)を伴う症状を指す。妊娠34週未満で発症する早発型と、34週以降で発症する遅発型があり、早発型のほうが重症化しやすい傾向にあるため早期発見が重要だ。日本では年間5万~10万人が発症し、高齢出産が増えたことから患者数は近年増加しているという。

「15歳未満の若年妊娠、35歳以上の高齢妊娠、肥満体形、初産の人が発症しやすい傾向があります。また、糖尿病や妊娠糖尿病、腎疾患をすでに発症している人にも多く見られます。とりわけ、家族に妊娠高血圧症候群の人がいると発症する確率は高くなるため、注意が必要です」

 妊娠高血圧症候群は、脳や肺、腎臓など全身のあらゆる合併症を引き起こし、母体を通して胎児にも影響をもたらす。最悪の場合には母体死亡だけでなく、死産、新生児死亡の原因になるという。

「母体や胎児死亡を防ぐためにも、早期発見や重症化を防ぐことが重要です。妊婦健診は必ず受けてください」

 妊娠高血圧症候群になると子宮や胎盤での血液の流れが悪く、胎児が栄養不足や酸素不足がちになるため、低体重(胎児発育遅延)の状態で生まれやすい。低体重で生まれると体が栄養不足に陥っているケースが多く、その結果、少ない栄養でも蓄え生きていけるような体質になる。そのため、同世代と同様の食事量を取ると肥満児になりやすく、成人を迎えてから生活習慣病を発症するリスクが高まるという。

「妊娠高血圧症候群を発症している妊婦さんには血圧が上がり過ぎないように早めに入院してもらう必要があり、場合によっては母体の安全を確保するために帝王切開を行います。しかし、家事や育児で大変だからといって妊婦健診を後回しにしたり、血圧が上がっていても入院をためらう妊婦さんが多いです。家族みんなで支えあって妊婦さんをサポートしましょう」

 出産後も気を付けたい。まだ血圧が高い状態なのに動き回ると血圧はさらに上がってしまう。家族が家事や退院の準備を行い、妊婦を安静にさせることが大切だ。

 安全な出産を行うためにも、妊婦健診は必ず受け、血圧が上がった際には早期に受診したい。

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