医療だけでは幸せになれない

人種差を問題にしつつ「動物データ」に納得する不思議さ

写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 これまで「情報の正しさ」という問題を繰り返し取り上げてきた。その中でマスクについての情報を「ランダム化比較試験」「メタ分析」と呼ばれる研究結果で見てきた。情報そのものの正しさを最もよく保証するからだ。しかし、そうした情報でさえ、多くの問題があり、正しい情報というには程遠いというのがこれまでの大ざっぱなまとめである。

 今回は、「情報そのものの正しさの吟味」に加え、「情報の当てはまりの正しさ」の問題にも触れてみたい。マスクの情報に即して言えば、デンマークやバングラデシュの研究が日本人に当てはまるのか、というわけである。

 マスクにしろ、ワクチンにしろ、あるいは治療薬にしろ、日本人を対象とした情報を紹介しないと、「外国人のデータが日本人に当てはまるのか」との批判が出る。人種による違いはあるので、もっともな疑問である。ただ、そうした批判を口にする人たちが平気で動物実験や試験管内のデータを利用して、いろいろモノを言ったりしていることに疑問を呈す声がほとんど聞かれないのはどういうことか。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

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