独白 愉快な“病人”たち

膵臓がんで余命宣告された叶井俊太郎さん「本当に半年で死ねるんですね?」

映画宣伝プロデューサーの叶井俊太郎さん(C)日刊ゲンダイ
叶井俊太郎さん(映画宣伝プロデューサー/56歳)=膵臓がん

「余命半年」と言われたのに半年以上たっても死なないから、「先生、話、おかしいじゃないですか。俺、ここに合わせて生きてきたのに、このあとどうすればいいの?」ってことは言いましたよ。

 でも、延期しちゃってるのはしょうがないから、毎日仕事をしている。けど、夕方になるとつらい。だるくてしんどい……。ぐったりして何もする気が起きない。だから早く死にたい。そう、安楽死が許されるなら真っ先に手を挙げるよ。

「俺、うつかな?」

 昨日主治医にそう言ったら、「全然違います。うつの人は人と会ったり、話したりできませんから」って言われたけど、自分はうつだと思うんだよね。うつになったことないから、うつに憧れてるだけかな。

「膵臓がん」がわかったのは、去年の6月。体調の変化はなかったけど、黄疸が出たので内視鏡検査したら、おおむね異常なし。けれど、影があるとかで翌週にもう一度検査したら、「次は奥さんと来てください」と言われたわけ。「やばい?」と思ったら、「ステージ3の膵臓がん」と宣告され、余命は半年。よくもって1年だって。

 くらたま(妻の倉田真由美さん)は号泣してたけど、俺的にはまったくショックはなく「そうなんですか」って感じ。むしろ「本当に半年で死ねるんですね」と念押ししてたな。

 治療は基本的に4カ月~半年間の抗がん剤でがんを小さくして手術で切除するという流れなんだけど、成功率は10~20%。抗がん剤は効くかどうかやってみないとわからないでしょ? しかも、その間は仕事がろくにできなくなる。そう考えると20%の確率には懸けられない。だったら治療は受けずに、半年間で見たい映画を見て、漫画や本を読んで、やらなきゃいけない仕事を前倒ししたほうがよほどいい。

 それにヨボヨボになって死ぬより、見た目がそこそこいいうちに死んだ方がいいじゃない。

 一応、セカンドオピニオンも受けたよ。俺は「もういい」と言ったけど、くらたまが諦められなくてさ。セカンドどころか、8カ所ぐらい受けた。でも、どこもだいたい同じ結果だった。

 そのうちに肝臓にも転移してステージ4になり、15センチほどに肥大したがんが内臓を圧迫して食事がのどを通らなくなった。「死ぬまで点滴か、食べられる処置をするか、どうする?」と聞かれたから、「食べるよ」って言って胃を半分取った。おかげで20キロぐらい痩せて、もう全然太らない。

 カツ丼を食べたくて夢に見たりするけど、肉なんかまったく食べられなくなって、今は主に刺し身。昨日の昼には寿司食ったんだよ。でも、10貫も食べたら夜から調子悪くて、「やべ~、失敗したなぁ」と思っているところ。こうして毎日の食事によって体調が左右される。そういうところも嫌で早く死にたいと思う。

映画宣伝プロデューサーの叶井俊太郎さん(C)日刊ゲンダイ
いつ死ぬかわからない方が怖くない?

 ただ、仕事は楽しい。昔からそれは全然変わらない。もう仕事なんかしないでのんびり……とは考えない。だけど仕事を理由に生きたいとも思わない。キリがないからさ。区切りはつけないといけない。

 俺、今まで泣いたことないんだよね。悲しくないのよ。余命宣告から1年5カ月たったけど、今は「本当に死ぬの?」という疑心暗鬼しかない。サイゾーの社長のアイデアで、自分の知り合いの有名人15人と対談した「エンドロール!」という本もつくったんだから、死なないと困るわけ(笑)。

 対談してみてわかったのは、「俺は死に興味がない」ってこと。どこかのインタビューにも答えたけど、この世にまったく未練がないの。やりつくしたと思っている。それだけ人生が充実していたんだろうね。そうしようと思って生きてきたわけじゃないけど、「今日死んでもOK」という状況が続いているみたい。

 誰しも必ず死ぬでしょう? 病気じゃなくても、交通事故とか災害とかで、いつ死ぬかわからない。わからない方が怖くない? 俺の命はあと半年。そう先にわかったからラッキーだと思っている。「俺が死んだら、これ見てね」と、パソコンやスマホのパスワードをいろんな人に教えているよ。

 もちろん、やり残したことはある。清算とか分配とか……。「これどうするの? もう叶井死んじゃったじゃん」となることもあるかもしれない。けど、しょうがないよ。「ごめんね。よろしくね」って先に謝っとく。

 遺言とか遺書みたいな重いことはできないし、死ぬまでにしたい10のこと……みたいなものも何もない。その代わり、この「エンドロール!」という著書を残すし、これから世に出る自分が関わった映画のエンドロールには「『叶井俊太郎に捧ぐ』と入れろよ」って全員に言っている。

 病気から学んだこと?それは「入院は二度としない」ということ。胃を切ったときに1カ月ぐらい入院したんだけど、痛み止めが効かなくて、この痛みを消すには死ぬしかないと思って、自殺未遂を何度もしたんだ。首を吊ろうとしたり、屋上に行こうとしたり、「殺してくれ!」って大暴れした。だからもう絶対に入院はしない。絶対にね。

(聞き手=松永詠美子)

▽叶井俊太郎(かない・しゅんたろう) 1967年、東京都生まれ。24歳で映画業界に入り、バイヤーとしてB級・C級映画を買い付けて宣伝。2001年に「アメリ」で大ヒットを飛ばし、映画配給会社を立ち上げたが、3億円の負債を抱えて倒産。現在は㈱サイゾーの映画配給レーベルの宣伝プロデューサーを務める。近著に対談本「エンドロール! 末期がんになった叶井俊太郎と、文化人15人の“余命半年”論」がある。



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