正解のリハビリ、最善の介護

「攻めのリハビリ」では具体的にどんなことを行うのか?

「ねりま健育病院」院長の酒向正春氏(本人提供)

 当連載の初回で、全国の著名なリハビリ病院から、もうよくならないと診断された寝たきりの男性患者さん(当時62歳)が、私が院長を務める「ねりま健育会病院」でリハビリを行い、3カ月後にはひとりで身の回りの簡単な生活動作と用事ができるまで回復して自宅に帰ることができたケースをお話ししました。

 この男性の場合もそうでしたが、廃用症候群などで心身機能が大幅に低下している患者さんのリハビリでは、「座らせる」「立たせる」「歩かせる」「コミュニケートする」作業を全力で行います。半年以上ずっと寝たきりだった患者さんでも、まずは「座る」「立たせる」「コミュニケートする」ことから始めます。ベッドに横たわった姿勢から、上半身を起こし、足の踵を床に着け、できるだけ背もたれに頼らずに座った姿勢をキープしてもらうのです。

 ただ、長期間寝たきりだったわけですから、座るだけでも最初はとてもできません。姿勢を維持できずにそのまま横に倒れ込んでしまいます。上半身を起こして立たせると数十秒もすると、血圧が一気に下がり、血の気がサーッと引いてフラフラして意識消失の状態になってしまうのです。そうなった時点で、座らせて立たせる訓練はいったん中断し、すぐ横になってもらいます。

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酒向正春

酒向正春

愛媛大学医学部卒。日本リハビリテーション医学会・脳神経外科学会・脳卒中学会・認知症学会専門医。1987年に脳卒中治療を専門とする脳神経外科医になる。97~2000年に北欧で脳卒中病態生理学を研究。初台リハビリテーション病院脳卒中診療科長を務めた04年に脳科学リハビリ医へ転向。12年に副院長・回復期リハビリセンター長として世田谷記念病院を新設。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」(第200回)で特集され、「攻めのリハビリ」が注目される。17年から大泉学園複合施設責任者・ねりま健育会病院院長を務める。著書に「患者の心がけ」(光文社新書)などがある。

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