「50歳過ぎて性格に変化アリ」なら認知症を疑うべき

「そんなこと言うなら、あなたが料理を作ればいいじゃないっ!」

 吉田賢治さん(59=仮名)の妻(55)が突然怒鳴り出したのは、夕食の席で「ちょっと味が薄い」と賢治さんが料理に醤油をかけようとした時だった。

 これまでの妻なら「あなたの体のことを考えてのことよ」などと笑って対応するか、「あなたが料理を作れば」と言うにしても、あくまでも冗談で、怒鳴ることはなかった。

 仕事で不在がちの賢治さんは気付いていなかったが、息子に聞くと「最近いつもこんな感じ。以前なら普通に聞き流していたようなことにも、キレる」と言う。

 それ以降も妻はちょっとしたことで激高したり、「“お米を買ってきて”と言ったのにどうして買ってきてくれてないのっ!?」と賢治さんの覚えのないことで責め立てたりすることが増えた。

 あわせて、きちょうめんできれい好きの妻の性格からは考えられないほど、部屋は散らかり、賢治さんのワイシャツにもアイロンをかけなくなった。

■脳の萎縮が原因

 50歳を過ぎて、性格が変わったように思えたら、疑うべき病気のひとつに認知症がある。眞田クリニック・眞田祥一院長(脳神経外科)が言う。

「認知症は神経変性による認知症と脳血管障害による認知症の2つに大別できます。神経変性は、加齢などによる神経細胞の減少で脳が萎縮し、神経や精神の障害を来す状態のことです。このうち、脳の前頭葉や側頭葉前方の萎縮が見られる前頭側頭型認知症になると、初期の段階から性格の変化が見られます」

 性格の変化というのは、「怒りやすくなる」「疑い深くなる」「身だしなみに気を使わなくなる」「暴力をふるうようになる」「落ち着きがなくなる」「こだわりが異常に強くなり、周囲のことを考慮せず、好き勝手に行動する」「社交的でなくなる」などさまざま。

 幻覚を見たり、「あの人は私のお金を盗もうとしている」という妄想を抱くこともある。これら性格の変化につながる症状を、専門用語で「周辺症状」という。周囲の人との関わりの中で起きてくる症状だ。

 一方、脳の神経細胞が壊れて起こる症状が「中核症状」。代表的なのが物忘れだ。認知症で最も多いアルツハイマーは、海馬の萎縮が一般的で、中核症状が先に見られ、次第に周辺症状が表れるようになる。

「しかし、それは典型的なアルツハイマーのことです。中には、海馬の萎縮とともに、前頭葉などがちょっと萎縮して、周辺症状、つまり性格の変化が目立つこともあります。また、物忘れがひどいことに漠然とした不安を感じているため、他人から指摘された時、気持ちを抑制できず、不安を怒りに変えて放出してしまう。これらのケースは珍しくありません」

 認知症は、残念ながら「治らない病気」だ。しかし、早期発見するかしないかは、その後の進行に大きな影響を与える。

「早い段階で薬を処方すると、進行のスピードを抑えられます。軽度の認知症なら、社会生活を普通に送ることができます。私は、明らかに脳の萎縮が見られない場合でも、認知症の気があると判断した場合は、薬を処方することがあります」

 賢治さんは周囲の勧めもあり、妻を心療内科に連れていった。そこから紹介された脳神経内科で「認知症の一種であるピック病」と診断された。現在、薬物治療を受けている。

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