運動マヒの後遺症が改善 常識打破の脳卒中「新リハビリ法」

 脳卒中で半身に運動マヒの後遺症が残るとリハビリが行われる。腕(上肢)は脚(下肢)より動きが困難で、回復が難しい。それもあり、「脚は何とか動くようになったけど、リハビリをしても腕は動かないまま」という人がほとんどだ。

 そもそも脳卒中による運動マヒは、発症後6カ月のリハビリで回復しなければ、それ以上はよくならないと考えられてきた。軽いマヒならリミットはもっと短く、約1カ月だ。つまり、運動マヒの後遺症が残ったら、腕は動かないまま過ごさなければならない人が圧倒的多数ということだ。その常識を打ち破るリハビリ法「NEURO」が登場し、注目を集めている。開発した東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座・安保雅博教授に話を聞いた。

 NEUROが画期的なのは、「発症後6カ月以上経った人でも回復可能」という点だ。

「専門医の間では、〈下肢が回復すればよし〉〈上肢は治らない〉といった考えが昔から変わっていません。それを何とかできないかと思ったのが開発のきっかけです」

 試行錯誤の末、安保教授がたどり着いたのは、脳に刺激を加えて不自由な腕を動かそう、ということだった。

「脳は右と左がバランスを取りながら機能しています。たとえば脳卒中で右脳が損傷を受けると、左脳が右脳の働きを助けるというのが一般的な考えでした。しかし私は、健康な左脳の働きが強くなり、損傷を受けた右脳の働きを抑えつけるので、運動障害が改善しない、と考えたのです」

■発症後半年以内がリミットだったが、28年目の人も改善

 では、健康な脳の働きを抑制し、損傷を受けた脳の働きを上げればどうなるか?

 特殊な医療機器で脳に低頻度の磁気刺激を当てると機能が抑制し、高頻度の磁気刺激では機能が高まることは明らかになっていた。安保教授は、健康な脳に1ヘル
ツ の低頻度刺激、または損傷を受けた脳に10ヘル
ツ の高頻度刺激を当てた。すると、磁気を当てる前より腕が動きやすくなった。目安は40分間。当てる場所、当てる時間などは患者によって変える。

「ただし、磁気刺激だけでは一時的な効果しか得られない。作業療法士とマンツーマンによる2時間の腕を動かすリハビリ(タオルで机を拭く、ペンで文字や絵をかくなど)と、日常生活で自分で行えるリハビリを共に行うことが重要です」

 磁気刺激+リハビリを行った1008人の患者を調べると、8割に腕の機能向上が見られた。

「お茶碗を持ってご飯を食べられる、編み物をできる、洋服を着替えられるなどです。対象患者は、脳卒中発症から1~28年。これまでの〈リハビリでよくなるのは発症後6カ月以内〉から大きく外れた方々です」

 ただし、これは万能のリハビリ法ではない。

「少なくとも2本の手指の曲げ伸ばしが可能な患者が対象です。〈今の動きを、より動くようにする〉というのがNEUROなので、全く動かない人には向いていません」

 脳卒中で運動マヒが残っている人は、マヒ側の筋肉がこわばり、内側に曲がった状態で極端に動きにくくなる痙縮(けいしゅく)も多い。そういう場合は、ボツリヌス毒素治療を行う。

「細菌が作り出す天然のタンパク質(ボツリヌストキシン)は、筋肉の緊張をやわらげる作用があります。運動マヒの改善は体の中心から進むので、上肢の場合は、肩、肘、手首の順。ボツリヌストキシンを肩回り中心に注射し、痙縮を落として、訓練をしやすくします」

 ボツリヌストキシンで筋肉の緊張がやわらいだ腕を動かすリハビリを、自宅で毎日1時間行う。全く腕が動かなかったのに、手が頭まで上がったり、肩から肘まで動かせるようになった例もある。

「最初はNEUROが不適応だったけど、ボツリヌス治療+リハビリで、NEUROが適応になった患者さんもいます」

 NEUROを行う医療機関は全国11カ所だ。

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