絶叫したり、暴言を吐いたり…医師が警告する「危ない寝言」

〈ウオオオーッ!〉
 ぐっすり寝ているはずの真夜中に、突然、寝言で叫び声を上げたり、暴言を吐く人がいる。深刻な病気かもしれない。

〈あなた、いったいどうしちゃったの?〉
 朝、いつものように起床したAさん(56)は、怪訝な顔をした妻からそう尋ねられた。

〈何かあったのか?〉
 身に覚えがないAさんが聞き返す。妻によると、真夜中に〈グガガガーッ!〉と叫び声を上げたと思ったら、いきなり隣で寝ている妻に殴りかかったり、蹴りつけ始めたという。

 寝ぼけているためかそれほど力は入っておらず、ケガをするような“暴力”ではなかったので、妻は無理に起こそうとはしなかったそうだが、まさか自分がそんな行動をとっていたとは……。

 それだけではない。最近のAさんは、寝ている時に〈ふざけるな!〉とか〈バカ野郎!〉などと怒鳴り散らし、空中を殴ろうとして拳を振り回したり、布団を蹴り上げたりするようになったという。

 Aさんは〈このところ仕事が忙しくて疲れていたし、そのうち寝言や寝ぼけも収まるだろう〉としばらく様子を見るというが……。
 いわゆる「寝言」は生理的な反応だ。眠りが浅いレム睡眠時に夢などの影響で言語中枢
 が刺激され、言葉として発せられるケースが多い。こうした生理的な寝言は〈小声〉〈短い〉〈感情的な言葉ではない〉といった特徴があり、ひと言ふた言しゃべるだけだったり、妻から〈なんかゴニョゴニョ寝言を言ってたわよ〉などと指摘される程度なら問題はない。

 しかし、Aさんのようなケースは要注意だ。練馬光が丘病院リウマチ内科顧問の後藤眞医師は言う。

「就寝中に大声で叫んだり、はっきりした口調で罵倒したり、隣で寝ている人を殴ったり、蹴ったり、首を絞めたりする場合は注意してください。夢の中の行動をそのまま実行に移してしまうのは『レビー小体型認知症』『パーキンソン病』『ナルコレプシー』の前駆症状で、その症状がある人はそうした病気になりやすいという研究報告があります。いずれも脳の働きに関係する病気で、寝ている間も、脳波の異常によってそうした症状が出てきていると考えられます」

 レビー小体型認知症は、脳の神経細胞が変性・減少して起こる変性性認知症ではアルツハイマー型に次いで多く、男性の方が女性よりも2倍多いといわれている。
「認知機能の低下が表れる前に、実際には存在していないものが見えてしまう『幻視』が起こり、進行するとパーキンソン病のような歩行障害を伴うケースが多い。やたらと大声で怒鳴ったり、暴力的になったりするタイプの認知症です」(後藤氏)

 パーキンソン病は、脳の神経伝達物質のバランスが乱れて発症する。手足の震え、筋肉のこわばり、歩行障害といった症状が特徴で、日本では20万人も患者がいるといわれている。

 ナルコレプシーは睡眠障害の一種で、「居眠り病」とも呼ばれている。覚醒させる神経システムが弱くなるため、一日に何度も急に耐え難い眠気に襲われて眠り込んでしまう。入眠時に幻覚を見たり、睡眠中にマヒが起こるケースも多い。

「いずれも完治するとはいえない病気ですが、早期発見できれば薬物療法で症状を軽くしたり、コントロールすることが可能です。ひどい寝言や寝ぼけが出始めた人は、そうした種類の病気になりやすいということを覚えておくことは大切です」(後藤氏)

 また、レム睡眠障害という病気も、Aさんのような症状が表れる。隣で寝ている妻から危ない寝言を指摘されたら、すぐに病院へ行かないと後悔することになる。

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