外国では単剤投与が一般的だが…統合失調症の薬なぜ多い?

 統合失調症の治療は、抗精神病薬による症状緩和が中心。多剤大量投与は「多種類の薬剤を大量に投与していること」だが、これが諸外国と比べて日本は突出している。

 諸外国の単剤投与率は70~90%で、3剤以上の処方はごくまれ。しかし日本では、2011年の国立精神・神経医療研究センターの調査によれば、入院患者の42%がほかの精神科で3剤以上投与されていた。

「日本で多剤大量投与が多いのは、統合失調症が生活と密接に関連した病気であることが背景にあります。どこからが生活障害でどこからが症状か分かりにくいようです。日本では薬で症状を抑え込もうとする傾向があります。幻聴にはこれ、被害妄想にはこれ、うつ状態にはこれ、と処方すれば、すぐに多剤大量になってしまいます」

 多剤大量投与は、薬の副作用のリスクを高める。手足の震え、血糖値上昇、不整脈などや、意欲が低下しすぎたり、興奮や妄想などがより強くなることも。さらに、抗精神病薬は少量でも効果を発揮することが研究で明らかになってきた。

「多剤大量投与が問題視されるようになり、国も薬を減らしていこうという方向性を打ち出すようになりました。それは非常にいいことですが、減薬を早急に行うことには経験上反対です」

■患者が薬について十分理解することも重要

 統合失調症に限らず、精神科の薬はすぐに薬を減らすのは危険だ。

「これまでの薬に別の薬をプラスし、症状が安定すれば前の薬を減らす。一時、多剤大量になりますが、これが一般的な減薬方法です。重要なのは、なぜ薬を減らせ、なぜこの薬を飲まなくてはならないのかを、患者さんに十分に理解してもらうこと。それなしに薬の出し方を変えれば、患者さんの不安や不信が強くなり、薬を飲めなくなったり症状が悪化したりすることも。誤った服用方法にもなりかねません」

「ひだクリニック」では、「統合失調症の治療の目的は社会復帰」ということを、患者やその家族と折に触れ確認する。社会復帰を実現させるために、薬の種類や量を減らす。しかし、必要な薬は飲む。適切な薬をきちんと飲み、症状をコントロールできるようになれば、どのような生活が可能になるか――。時にイラストなどを使いながら話し合うという。

「抗精神病薬、抗不安薬、睡眠薬、抗パーキンソン病薬を患者さんによって使用量を変える。経口薬では薬の血中濃度が不安定で副作用が出やすいので、2~4週間に1回の注射で症状をコントロールできる特効性注射剤も用います。副作用が少なく、症状が安定しやすいので、経口薬がいらなくなる人もいます」

 リハビリも行う。院内のデイケアで同病の仲間と精神的な交流を図る。社会復帰に向けての就労訓練を受ける。一人暮らしを始める人も多い。

「減薬だけを目標にすれば困難。社会復帰を目指すことで、結果的に薬が減るということが大事なのです」

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