世界初「軟骨細胞シート」 変形性膝関節症に効果あり

動き回れるのは膝が元気だからこそ/(C)日刊ゲンダイ
動き回れるのは膝が元気だからこそ/(C)日刊ゲンダイ

 患者数2500万人以上といわれている変形性膝関節症に関する世界初の治療が、数年後には臨床応用されるのではないかとみられている。開発者の東海大学医学部外科学系整形外科学・佐藤正人教授に聞いた。

 変形性膝関節症は、加齢やけがで軟骨がすり減ることが原因だ。立っても歩いても膝が痛く、生活の質は著しく低下する。

「最終的な治療は人工関節に交換する手術になり、それまでは消炎鎮痛剤やヒアルロン酸注射などの対症療法が中心です。すり減った軟骨を修復する治療法はこれまでありませんでした」

 そこで佐藤教授が開発したのは、「軟骨細胞シート」。患者の膝の荷重のかかっていないところから、軟骨組織を関節鏡で採取して細胞を取り出し、3~4週間かけて培養する。それを薄いシート状にし、すり減った軟骨の表層部分に移植する)。すると、軟骨細胞シートが新たな軟骨を作り出し、再生される。

「軟骨をすべて取り換えなくても、人間が持つ修復再生能力によって、表層部分に移植した軟骨細胞シートが、軟骨を作り出します」

■術後3カ月で新たな軟骨再生を確認

 軟骨細胞シートの安全性を見る東海大の臨床研究では、「徐々に変形性膝関節症が進行した」5例、「スポーツなどで前十字靱帯を切って長年放置し、変形性膝関節症が進行した」3例の、計8例の患者に治療を行った。手術後3カ月のMRIでは、すべての患者に新しい軟骨が再生されていることが確認された。

「軟骨の厚さ、硬さとともに組織に関する評価では、95%以上が硝子軟骨という質の良い軟骨になっていました。これまでの再生医療では線維性の軟骨にしかならなかった。硝子軟骨と比べ、線維軟骨は長期的に見るとまた悪くなりやすい」

 ただし、軟骨細胞シートは、「それだけで変形性膝関節症を治せる」というものではない。前出の8例も、骨の形を整える骨切り術や前十字靱帯の再建などの手術を同時に受けている。なぜなら、変形性膝関節症の治療は少なくとも、

①症状の進行でO脚になってしまった膝をできる限りまっすぐにする

②炎症をコントロールする

③すり減った軟骨を改善する

 といった多方面からのアプローチが必要だからだ。しかしそれでも、軟骨細胞シートが画期的な治療法であることは間違いない。

「従来は①と②しか方法がなかった。そこに、軟骨細胞シートの登場で③が加わった。結果、治療効果を長持ちさせることが可能になったのです。①と②だけなら人工関節の手術がやがて必要になった人が、③をプラスすることで、自分の膝での歩行で寿命を全うできるかもしれません」

 現在は患者自身の軟骨細胞による軟骨細胞シートを用いているが、それとは別に、他人の軟骨細胞による軟骨細胞シートの研究も行われている。それによって治療のコストを下げ、より多くの人が変形性膝関節症の治療を受けられる可能性が出てくるという。

 さらには初期の変形性膝関節症の治療への応用も研究の視野に入っている。今後が楽しみだ。

※東海大では、臨床研究のエントリーは終了している。

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