最悪一生寝たきりも…風邪だと思ったら「扁桃炎」の恐怖

喉の痛みを甘く見てはいけない/(C)日刊ゲンダイ
喉の痛みを甘く見てはいけない/(C)日刊ゲンダイ

 風邪だと思っているその症状は、実は扁桃炎かもしれない。最悪の場合、緊急手術や長期入院を余儀なくされる。手足がマヒし一生寝たきりになる人もいる。また、いったんよくなっても、入院が必要なほどの重度の扁桃炎を繰り返すようになる人も。決して甘く見てはいけないのだ――。

■重症化すると首の奥まで膿がたまる

 Aさんは、食事をする時に喉に違和感があった。次第に食べ物を飲み込むのもつらいほど痛みが増し、発熱もあったが、風邪だと思い、市販の風邪薬でなんとかしのいでいた。

 しかし、40度の高熱で起き上がれなくなり、口から水も飲めないほど咽頭痛が激烈に。大学病院の耳鼻咽喉科で「扁桃炎が重症化して首の奥まで膿がたまっている」と診断された。緊急手術になり、入院生活は1カ月近くに及んだ。退院後も、何度も扁桃炎を繰り返すなど慢性化し、最終的に、扁桃の摘出手術を受けることになった。

 扁桃は、口を開けた時に見える口蓋垂(あごの上から垂れ下がっているもの)の両脇にある。扁桃には免疫細胞が集まっていて、鼻や口から気管や肺へ細菌が侵入するのを防いでいる。

「細菌やウイルスなど病原菌が通る最初の関門が扁桃で、常に炎症があります。しかし健康な時なら、炎症があっても大したことはありません。ところが、風邪をひいたり疲労、喉の乾燥があると、扁桃の細菌が増殖し、炎症がひどくなります。最初は“ボヤ程度”だったのが、どんどん“火”が大きくなっていくのです」(順天堂大学医学部付属順天堂医院耳鼻咽喉科・三輪正人准教授)

■手術しても“肉”は腐ったまま

 最初は扁桃だけの炎症(扁桃炎)だったのが、炎症が扁桃の周囲、そして喉の奥にまで広がり、膿がたまる。さらに炎症は、頚部から食道へ、食道から胸へと広がっていく。

「扁桃だけの炎症なら抗生物質で対処できるかもしれませんが、扁桃の周囲まで炎症が広がり膿がたまった扁桃周囲膿瘍以降は、抗生物質に加え、切開して膿を取り除く手術が必要です。手術後も、肉が腐り、細菌が繁殖して膿がたまりやすい状態になっているので、胸腔内にチューブを置いて圧をかけ、胸腔にたまった膿をその都度吸引する胸腔ドレナージが必要になることもあります。入院は数週間に及びます。場合によっては、どんな手もうまくいかず亡くなられる方もいるのです」

 扁桃の炎症が、頚部から脊椎、脊髄へ広がることもある。手足につながる神経が通っているので、手足にマヒが出て寝たきりになる悲惨なケースもあるのだ。

「それだけではありません。病巣性扁桃炎といって、扁桃炎があるだけで、扁桃とは遠く離れた腎臓、肝臓、皮膚、関節などに悪影響を及ぼすことが分かっているのです。理由はまだ完全に解明されてはいません。腎炎がなかなかよくならなかったが、扁桃を摘出したら腎臓の炎症も改善したというケースもあります」

 扁桃炎の治療は、軽症なら抗生物質や消炎剤などの薬物治療。点滴になることもある。扁桃周囲膿瘍のようにすでに膿が扁桃から周囲にまで広がっていたら、前述の通り、手術になる。

 だから、こじらせないことが非常に重要だ。ポイントは、早めに医師の治療を受けることに尽きる。

「最初の症状は風邪と似通っているので、症状だけで見分けるのは困難です。風邪らしき症状があり、2~3日様子を見ても改善しない、激烈な喉の痛みがある、といった場合は扁桃炎を疑って病院に行くべきです」

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