「男性型脱毛症(AGA)の治療にはグレーゾーンが多い。効果があることが実証されていない治療や、安全性に疑問がある治療やケアを行っている医療機関もある」
こう警告するのは、2010年の「男性型脱毛症診療ガイドライン」の策定委員長である、東京医科大学病院皮膚科・坪井良治教授だ。AGA治療は保険適用外である上に、効果が見られるまで時間がかかるので、治療費はかなりの額になる。効果が期待でき、安心して受けられる治療はどういうものか?
AGAは、男性ホルモン(テストステロン)が主に関係している。テストステロンが5αリダクターゼⅡ型という酵素により、ジヒドロテストステロンという活性型男性ホルモンに変わる。それによって、前頭部や頭頂部で脱毛を促す方向に働く。なぜ前頭部や頭頂部だけに起こるのかは完全には解明されていない。
「AGAの特徴は、前頭部や頭頂部だけ薄くなること、毛髪が細く短い“軟毛”になっていること。脱毛は思春期以降に始まり、徐々に進行します」
薄毛で病院を受診すると、AGAか、薬剤や全身疾患による脱毛や円形脱毛症といった別の原因によるものかの鑑別診断が行われる。脱毛に対して過剰に心配している人もいて、心療内科や精神科での治療が適切なケースも少なくない。
■効果実感まで最低でも1年
AGAだと判明すれば、ガイドラインに従った治療が行われる。治療の推奨度は、エビデンスや治療報告などによりA~Dと区別されている。
「A(強く勧められる)の治療は、内服薬『フィナステリド』と、外用薬『ミノキシジル』です。ただし、頭部全体の毛髪が均一に薄く減っているタイプには、フィナステリドの効果はそれほどではなく、ミノキシジルの方が適応があります。一方、前頭部と頭頂部の毛髪が極端に薄くなっている典型的なAGAにはフィナステリドが効く。ミノキシジルと併用すれば、より効果が高い」
効果が出てくるのは3カ月から半年くらいたってからだが、「効果があった」と本人が自覚できるまで、少なくとも1年はかかる。
5αリダクターゼⅡ型の影響を受けない後頭部の毛髪を毛根ごと採取し、薄毛部分に移植する「自毛植毛術」は、推奨度B(行うよう勧められる)だ。
「医療機関によってやり方や値段が違います」
人工毛の植毛手術もあったが、推奨度D(行わないよう勧められる)。医薬部外品や化粧品の育毛剤はC1(行うことを考慮してもよいが、十分な推奨がない)だ。
そのため坪井教授は、「現時点では、推奨度Aの薬物治療がベスト」と言う。
新治療の研究も行われている。来年にも登場するとみられているのが、第2世代のフィナステリドといわれる「デュタステリド」という薬だ。
さらに、LEDや低出力のレーザーを頭皮に当てる治療法や、細胞を培養して薄毛部分に注入する再生医療などの研究も行われているが、その恩恵を受けられるのは少し先になるかもしれない。とはいえ、薄毛を悩まずに済む未来は、夢ではない。