「悪玉コレステロール」退治 “食事制限”より先にやるべきこと

その人本来の体質によるところが大きい
その人本来の体質によるところが大きい(C)日刊ゲンダイ

 今年2月、米農務省が「コレステロール摂取の制限をなくす」と発表した。その理由は「食事中コレステロールの摂取と血中コレステロールの間に、明らかな関連を示す科学的根拠がない」からというものだ。

 日本でも、厚労省がコレステロールの1日の摂取基準値を撤廃(「日本人の食事摂取基準2015年版」)。それを受けて今月1日、日本動脈硬化学会も見解を出すなど波紋が広がっている。

 これらは、コレステロール値を気にして卵や肉などを制限しなくていいということ? 東京慈恵会医科大学付属病院糖尿病・代謝・内分泌内科の坂本昌也医師に聞いた。

 コレステロールは脂質の一種。悪玉(LDL)コレステロールと善玉(HDL)コレステロール(以下、「悪玉」「善玉」)があり、悪玉が高いと動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳卒中などのリスクを上昇させる。

「コレステロールには、食事から作られるものと肝臓で作られるものがあります。米国や日本の発表が意味するのは、『コレステロール値に関しては、食事から受ける影響は大きくない。だから、健常の人に対する摂取基準値を掲げることをやめた』ということです。米国や厚労省の発表はあくまで健常者が対象。コレステロール値が高い人は、食事制限や運動が不可欠。他の病気を予防する意味でも必要です」

 ただ、数値がなかなか下がらないケースもある。Aさんは毎年、健診で悪玉の値が高いと指摘されている。週3~4回ジムに通っていて、体重は標準範囲内。卵や肉を頻繁に食べるわけではない。考えられる原因は、毎日の晩酌だけだったので、気をつけることにした。しかし、悪玉は一向に下がらないままだ。

「コレステロール値は、その人本来の体質によるところが大きい。体質的に標準または痩せ形なのに悪玉が高い人は、落とせる脂肪も多くないなど“ふり幅”が少なく、生活習慣を改善しても数値の低下を期待できない場合があります。Aさんの例が典型的です」

■早期から薬剤治療を行う場合も

 また、コレステロールは季節によって変動が大きく、下がった数字が再び上昇に転じることもあるという。

「体質的にコレステロールが高い人は、食事制限と運動だけでは不十分。自覚症状もなく、そのうち悪玉の数値が上昇し始め、気づいた時には動脈硬化がかなり進行してしまっているというケースがあります。ボロボロに硬くなったゴムホースが二度と元に戻らないように、血管も傷みがひどくなると、そこから治療を始めても大きな効果が得られません」

 坂本医師は、悪玉が基準値を超えている人は脂質異常症と診断。食事や運動の改善とともに将来的なリスクを考えて、血圧管理、カロリー管理を徹底している。さらに、血管年齢が実年齢より高い、または家族に心筋梗塞や脳梗塞の人がいる場合は、早期から薬剤治療を行う場合もある。

「米国では、2型糖尿病の患者さんにはすべてコレステロール値を低下させる薬を処方する指針を打ち出しています。日本の学会では賛否両論ありますが、私は心筋梗塞や脳梗塞になるリスクの高い方には『早期治療で早めの血管保護』が重要と考えます。生活習慣改善で数値に変化が見られなくても、遺伝的に数値が高い人を除き、適切な治療でほとんどの方が悪玉の低下を期待出来ます」

 心筋梗塞や脳卒中のリスクは、簡単な血管年齢測定または画像検査で推定できる。

「長年、患者さんのデータを見ていますが、同じ悪玉の数値でも、薬を飲んでいる人は飲んでいない人に比べて血管年齢の上昇が抑えられているという結果も出ています」

 もし、悪玉が基準値以上なら、脳梗塞、心筋梗塞の発症リスクを一度検査した方がよさそうだ。

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