水分大量摂取が招く「水毒症」 熱中症対策は“一緒に梅干し”で

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 熱中症を防ぐため、あちこちで「こまめな水分補給を!」という対策法が盛んにアナウンスされている。だが、むやみに水分を取り過ぎると「水毒症」を引き起こし、最悪の場合、死に至ることもある。循環器専門医で「井上医院」(水戸市)院長の井上幸一氏に、水毒症について気をつけるべきポイントを聞いた。

 健康な成人の水分補給目安量は1日約2リットルといわれる。その3倍に当たる1日6リットル以上の水を飲むと、水毒症を引き起こす可能性があるという。

「ただ、6リットルという数値は、健康な腎臓を持った成人が摂取した場合の目安です。50~60代の中高年は腎臓の機能が低下しているケースも多い。2リットルを超えたら水毒症にかかる可能性があるといっていいでしょう」

 腎臓は、血液中の尿素や老廃物と一緒に、余分な水分を尿として排出する役割がある。その排出速度は通常1分間に平均1~1.5㏄程度で、1日に換算すると1.5リットルほど。健康な腎臓がフルに活動したとしても、1分間に16㏄の尿排出が限界なのだ。

 中高年になると腎臓の排出能力も下がり、体内に水分がとどまってしまう。このように分解、排出が追いつかず、水分が血液にたまると水毒症を引き起こす。

■昏睡状態に陥ることも

 また、血液中の塩分濃度を検知し、喉の渇きを促して水分量をコントロールするADH(抗利尿体ホルモン)の働きも、急激に水分を摂取すると追いつかなくなってしまう。

「水は腸から一度、吸収されて血液へ合流します。大量の水分を摂取すると血液中の塩分濃度が一気に低下し、濃度が低い方から高い方へ移行する浸透圧の働きによって水分は血管から周辺の細胞へ移動します。水を大量に含んで膨化した細胞は機能低下を起こし、最後は破裂、死滅する場合もある。中でもデリケートな脳細胞は影響を受けやすい。脳の中の細胞が多く死滅すると、さまざまな全身症状を引き起こします」

 水毒症になると、初めはイライラして機嫌が悪くなり、ふらつき、めまい、吐き気などが生じる。ひどい場合は、意識を失い、全身痙攣を生じて、昏睡状態になってしまう。意識のない時に嘔吐が起これば、吐瀉物が気管に詰まり呼吸停止を招く。こうなると、死亡リスクがアップする。

 予防するためには、水毒症を招きやすい状況をしっかり把握しておきたい。

 まずは、緊張で交感神経が高ぶり、喉が渇きやすくなって大量の水分を欲する「心因性多飲」が起こっている場合。統合失調症の症状にも「強い喉の渇き」があり、多飲を引き起こすケースもあるから注意が必要だ。

 2つ目は、食あたりなどでお腹を壊している場合。嘔吐や下痢によって体中の水と塩分が大量に排出されるため、喉が渇いて水をたくさん飲んでしまう。

 3つ目は、熱中症になってしまった場合。大量の汗をかいて体内の水と塩分が失われているのに、さらに水を飲むことで血液が薄くなってしまう。

 この中のいくつかの条件が重なった場合は、特に注意が必要だ。

「水毒症の予防で一番重要なのは、水分補給の仕方です。喉が渇いた時、水だけを飲むのではなく、一緒に塩分も摂取する。これで、血液中の塩分濃度を下げずに済みます。熱中症対策にこまめな水分補給は欠かせませんが、梅干しを一緒に食べるようにするなど工夫してください」

 ひょっとして、水毒症の症状かも? と不安に思ったら、体重計で体重の増加を確認。普段よりも2キロ以上増えていたら、病院で診てもらった方がいい。

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