Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【今井雅之さんのケース(2)】便潜血検査が陽性なら症状なくても大腸カメラを

 俳優・今井雅之さんの命を奪ったのは、大腸がんでした。今年4月、ステージ4の末期であることを告白した会見によると、昨年8月に腹痛が続いて近くのクリニックを受診したところ、「腸の風邪」と言われたそうです。ところが、処方された薬を飲んでもよくならず、11月に仕事先の兵庫県西宮の病院でCT検査を受けた結果、がんが腸の2、3カ所をふさいでいたといいます。

「腸の風邪」は明らかな誤診ですが、がんが腸をふさぐほど大きくなるまでには10年から20年以上かかります。もっと早いうちにがんを見つけることはできなかったのでしょうか。今回は、大腸がんの早期発見について考えてみます。

 大腸がんの症状は、お腹が張る、血便、下血、便が細くなる、残便感がある、貧血などがあります。しかし、早期の大腸がんでは、ほとんど自覚症状は出ませんから、症状をアテにすることはできないのです。今井さんのケースも、腹痛といった異変を感じたのは、診断の1年ほど前でした。

 では、どうすればいいか。皆さん、会社の健康診断で便潜血検査を受けると思います。便に血が混じっているかどうか調べる検査です。がんやポリープ、潰瘍などがあると、出血しやすくなります。そのような病変からの出血をチェックするのです。

 ただし、痔などによる出血の可能性もあり、陽性となっても必ずしもがんやポリープとは限りません。便潜血検査が陽性で、大腸がんである可能性は、せいぜい4%。約30%は、がん化の心配がない大腸ポリープです。つまり、残りの6割超は、痔などの命に別条はないものといえます。

 つまり、便潜血検査は決して精度の高い検査ではありません。しかし、陽性者の4%に当たる大腸がんを持つ人が、自覚症状がないからといって、1年、また1年と放置して10年近くなると、今井さんのように末期になってしまうのです。

 便秘症の方などは、排便がいつ起こるか分からず、便潜血検査を煩わしいと思うかもしれませんが、検査そのものは簡単でコストも安く、大腸がんを見つけるための手段としてはもっとも推奨されるものです。もし陽性なら、症状がなくても次に大腸内視鏡検査を受けて、がんがあるかどうか確定します。

 サラリーマンは会社の健康診断がありますが、サボっている人が少なくないのも事実。奥さんの健康診断もサポートしてくれる会社もありますが、なければ奥さんは自分で住民検診を受けることになります。自治体からの補助などがあり、安価で受けられますが、肝心の受診率は30~40%と低空飛行。もったいない話です。

 今年の予測では、大腸がんにかかる人は13万6000人で、胃がんを抜いて部位別のトップに。食事の欧米化などによって、年々患者数は増えていますし、死亡数は50年前の10倍。そんな現状からも、今井さんの訃報を教訓に便潜血検査を受けることが大切です。

中川恵一・東大医学部付属病院放射線科准教授

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。