介護の現場

風呂は毎日でも入りたいけど支払いを思うと諦めています…

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

“老老介護”――。介護される人が介護をするという社会現象が急速に進み、思わぬ事態を招いている。

 東京・下町にある300世帯ほどの都営住宅に、40年近く住んでいる古川利男さん(仮名、84歳)は、小さな町工場に勤めながら、苦労して2人の子供を育てた。

 その2人の子供たちも親元を離れて独立。二十数年前から、夫婦2人だけの生活になった。

「ご飯に味噌汁、納豆に卵といった2、3品のおかず。そんな毎日の簡単な朝食や夕飯は、妻(83歳)か私か、その日、元気な方が作るようにしています」(古川さん)

 お互いに長く激痛が走る膝痛や、重い腰痛を抱えており、もはや単独で風呂に入ることや、外に買い物にも行けないほどの老体になった。朝方、腰を折って顔を洗うことにも難儀している。

 都心に世帯を構える2人の子供が、顔を見せる回数は年に1度か2度。親子の関係はそれほど悪くはないが、子供たちも、自分たちの生活を守ることで精いっぱいのようだ。

 古川さん夫婦の収入は支給される2人合計の国民年金(月平均13万円)がすべて。預金はほとんどなく、ゆとりのある生活ではない。

 望んでも有料老人ホームの入居などはもってのほか。ただし、月々支払いの費用が安い特養老人ホームは一応、役所から案内パンフをもらっている。

 お風呂は自宅から近い「デイケアサービス」にお願いし、週に平均2回、夫婦交代で送迎バスに乗って老人ホームの施設に向かう。風呂に入り、昼食、簡単な膝、腰などのリハビリ運動を行っている。

 このデイケアの個人負担金が1回1000円(プラス、昼食代が700円)。この8月からは高収入者の個人負担金が、1割から2割に値上がった。

「風呂は毎日でも行きたいけど、夫婦2人ですから、支払いを思うと諦めています」(古川さん)

 厚労省の推計によると、10年後(2025年)には夫婦2人暮らしで65歳以上の世帯主が1.2倍、75歳以上が1.6倍に跳ね上がる。しかも、高齢化社会の対策として国は介護の「在宅化」を奨励しており、古川さん夫婦のような老老介護が避けられない深刻な状況を迎えてしまう。

 毎日の食材や、日用品などの買い物はどうしているのか。

 古川さんの場合、区役所に申請して荷物を載せたり、疲れたら座れるような車椅子を借りている。この車椅子に寄りかかる姿勢で週に1度か2度、ゆっくりと近所のコンビニに向かう。

「私が住む住宅では、老齢者のひとり住まいが多くなっています。『見守り隊』というのでしょうか、たまに部屋を訪ねてきて声をかけてくれるボランティアの方がおります。でも近年、救急車が来る回数が増えました。部屋で転んだとかで助けを求める、そういう人が増えているのでしょうね。明日はわが身ですけど……」

“今はただ生きているだけ”という古川さん。目の前の不幸はわかっていながら、手の打ちようがない。日本は総下流老人社会の中での老老介護が広がっている。