天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

治療実績を公表しているかチェック


 かかりつけのクリニックで大学病院を紹介され、受診を勧められました。信頼できる施設なのかどうかを見分ける方法はありますか?(69歳・男性)


 病状が悪化するなどした場合、かかりつけ医から、より専門的で高度な検査・治療ができる大学病院や総合病院を紹介されるケースがほとんどです。

 その際、紹介された病院が安心して治療や手術を任せられるところなのか。患者さんにとっては初めて訪れる病院なわけですから、不安に思うのも当然です。

 いちばん簡単で確実に判断できる方法は、紹介された病院のホームページを調べてみて、治療実績=手術実績を公開しているかどうかをチェックすることです。どんな内容の手術をそれぞれ何件手がけ、死亡率はどれくらいなのかというデータをしっかり公表しているかどうか。その数字が他の病院と比べて高いレベルであれば、信頼できる病院といえます。

 心臓血管外科専門医の認定を受けるためには、日本心臓血管外科学会へ治療実績を報告する義務があります。信頼できる病院は、報告した治療実績から割り出したデータを患者さん向けに公開していると考えていいでしょう。紹介された病院に不安があれば、かかりつけ医に相談して変更してもらってください。

 中には、紹介された病院が遠方にあるため、「もう少し近い病院にしてもらえないか」と頼んで変更してもらう患者さんもいます。しかし、そのことであまり信頼できない病院を紹介されてしまうケースもあります。自分の体を守るためですから、自分で、もしくは家族に頼むなりしてデータをしっかり調べ、納得できる病院を探してください。

 経済的な問題があって治療費に不安がある患者さんは、治療件数=手術件数が多い病院なら相談にのってくれる可能性が高いといえます。そもそも日本の病院は、国民健康保険によってかかる医療費の70%は担保されています。治療件数が多い病院は、その70%の中で最善の治療を選択していくノウハウを持っているものです。

 また、公費で治療費を補助してもらうなど、さまざまな解決策を検討してくれることも少なくありません。治療費が払えないから……などと自分で判断して治療をあきらめることなく、治療件数が多い病院に相談してみましょう。

 自分が該当する心臓病の治療件数を調べる際は、その病院の1年間の件数が圧倒的に多くなくても、長期間にわたってまとまった症例数を手がけている経歴があるなら問題ありません。新しい病院なら「単年で症例数が多い=トータルの経験値が多い」病院のほうが信頼性は高いといえます。

 信頼のおける大学病院や総合病院で、手術をはじめとした高度な治療を受けて退院した後は、それまで通っていたクリニックで定期的に診察を受ければ問題ありません。診断書では、半年間、状態が安定して異常がなく、自覚症状も薬も変わらない場合に「治癒」とみなします。その状態であれば、高度な検査や治療は必要ないのです。

 心臓手術やカテーテル治療では、一般的に術後1年、3年、5年の経過をみて問題がなければ、その後10年は大きなトラブルは起こらないと判断できます。

 高度な治療を受けた後はかかりつけ医に診てもらいながら、1年、3年、5年の経過観察は、治療を受けた病院、もしくは同じような機能を持った病院で、その時点で最適な最新の検査を受けましょう。カラードップラー超音波検査や320列CT、場合によってはカテーテル検査を含めた診察をしてもらってください。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。