天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

内科治療より手術した方が安心できるケースも

 心臓手術の“入り口”は、実際に手術を行う心臓血管外科ではなく、循環器内科(または循環器科)になります。「ひょっとしたら心臓病かもしれない」というとき、患者さんはまず循環器内科で検査を受け、診断や治療が行われます。

 循環器内科が行う治療は、薬物治療、カテーテル治療、ペースメーカーの植え込みなどの処置で、手術は心臓血管外科が行います。

 手術が必要かどうかの判断も内科医が下し、心臓外科医は原則的に最初の診断を行っていないのです。

 循環器内科は、エビデンス(科学的根拠)に基づいたガイドラインに沿って「どの段階で手術が必要になるか」の判断を下していますが、中には内科と外科の連携があまり取れていなかったり、バランスが悪い病院があるのも事実です。かかりつけ医がいる場合は、どこの循環器内科がいいかを相談するのがいいでしょう。

 患者さんの状態によっては内科治療が最適なケースもありますが、思い切って早めに手術をした方が、安心して仕事や家庭に復帰できるケースもあります。参考までに、心臓病の手術が必要になってくるケースは、9割が何らかの自覚症状が出た段階です。胸痛、息切れ、呼吸困難、周囲の歩行速度についていけないといった症状があれば、手術適応ゾーンに入ったと考えてください。

 診断を受けた循環器内科だけでは不安だったり、治療法に迷っている場合は、重症にならないうちに「セカンドオピニオン」を受けることも大切です。

 セカンドオピニオンを受けるときは、それまでの自分の担当医から病状の経過や治療方針などが書かれた診療情報提供書や検査結果などを出してもらう必要があります。担当医に遠慮してセカンドオピニオンを躊躇してしまう患者さんもいるようですが、近年ではセカンドオピニオンを受けることが当たり前になってきているので、気兼ねすることはありません。

 セカンドオピニオンは、心臓手術の症例数が多い病院で受けることをお勧めします。そうした病院は、患者さんが他の病院でのセカンドオピニオンを希望するケースもありますし、他の病院の患者さんが受けにくるケースもあるため、セカンドオピニオンの手順に慣れているからです。

 反対にセカンドオピニオンに慣れていない病院は、患者さんが他の病院に出ていくのも、他から受けにくるのも嫌がる場合があります。そうした病院では、安心して治療を任せられないと判断していいでしょう。

 セカンドオピニオンを受ける上で一番大事なのは、重症になる前に受けることです。「まだ軽いからいいんじゃないか」とは思わないで、担当医から「そろそろこういう治療も考えなければいけませんよ」と言われた時点で受けるようにしてください。

 セカンドオピニオンでは、立場の違った医師に話を聞いてみるのもいいでしょう。治療方針がカテーテルなどの内科治療の場合は心臓外科医に、手術などの外科治療が方針になっている人は循環器内科医に意見を聞いてみるのです。その治療法でいいかどうか、より客観的な判断ができる可能性が高くなります。特に「通常よりも危険性が高い」と言われたときには、必ずこの方式をお勧めします。

 たくさんの医師の目で同時に病気を監視してもらうことができているか、できていないか。これで、患者さんのその後の人生が左右されるケースもあります。納得できる治療法を選択可能な状況にすれば、仮に100点満点の治療法でなくても、“外れクジ”を引いてしまう可能性が低くなるのです。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。