独白 愉快な“病人”たち

元俳優 山本陽一さん(45) 劇症心筋炎 ㊤

山本陽一さん
山本陽一さん(C)日刊ゲンダイ

2009年8月、4歳になる娘が風邪をひき、自分もそれをもらったか、と思っていたんです。子供からうつった風邪はものすごく強くて、高熱が出るんですよ。

 3日ほど近くのかかりつけの病院で点滴を受け、薬をもらっていたのですが良くなりませんでした。9日の夕方になると呼吸ができなくなり、悪寒がしてきた。38度を超える熱が出て、「ドキ、ドキ……ド……」と、心臓の鼓動がおかしい。

「あれっ! 心臓が止まる!!」

 気が遠くなりながら娘を妻に預け、自分で車を運転して、市民病院に飛び込みました。

 レントゲンを撮ると肺は真っ白で、心臓は肥大化していました。この時担当してくれた医師が北里大学出身の先生で、いろいろと調べてくれた。その結果、妻が呼ばれ、「劇症心筋炎かもしれない」と告げたそうです。

 劇症心筋炎は前駆症状として、発熱、咳、関節痛などの風邪症状があり、その後、心筋炎を発症し、呼吸困難、ショック状態あるいは突然死に至ることがある恐ろしい病気。

 心筋梗塞に似ていて、働き盛りの30代から40代の突然死の原因の20%を占めるともいわれています。風邪や肺炎に似ているので、病院に行っても見分けられる医師が少ないのだそうです。

 ただ、僕は劇症心筋炎だなんて知りませんから、「うちでは手に負えません」と、何の説明もせずに北里大学病院に転送と言われた時は、かなりムッとしました。でも、その対応のおかげで僕は命を落とさずに済んだのです。

 妻と市民病院の医師が同行して、救急車で北里大学病院に搬送されました。「ドラマみたいだね~、カッコよくない?」「ね、ね、これで死んだら泣いちゃう?」なんて救急車に乗っている時はまだ妻に話しかける余裕がありました。でも、医師も妻も笑ってくれない。

 搬送先に到着するとICUに入れられ、太ももや首にセンサーをつけられ、手には点滴の針を刺され、あっという間に管だらけ。酸素マスクをしても、とにかく息苦しくて、喉が渇く。 

 一番大きな酸素マスクに替えても苦しかった。隣のベッドでは心電図のモニターが「ピー……」と鳴り、看護師さんたちがバタバタしたかと思ったら、隣のベッドが霊安室に向かう……。「次は自分かな」と朦朧としながら考えていました。

 後で聞いたのですが、僕のベッドの死角には心停止した時の電気ショックの機械と、死んだ時に体を拭くためのおしぼりが準備されていたそうです。

 周りの様子も覚えていたところを見ると、ICUに入って半日ぐらいは意識があったんだと思います。その後、鎮静剤を入れてから5日は昏睡状態でした。昏睡状態の時は動くというか暴れるらしく、全身ベッドに縛りつけられていたそうです。見舞いに来た姉は「機械から顔が出ていた」と言っていました。

 僕の心臓は半分以上細胞が死んでいて、人工心肺にする一歩手前。もし、人工心肺にすると1000万円以上もかかる。でも、植物人間でも何でも、僕が生きてくれるためならと、母と妻は人工心肺をお願いする覚悟でいたそうです。たいして稼げない大黒柱で、僕自身は「だったら死なせてくれ」って思いましたが。

 5日間ICUに入れられ、次は個室に移された。人と接することが心臓にストレスになるからとの配慮でしたが、僕は個室にいることが苦手。芸能人だから人に見られるのが嫌だとか、そんな気持ちもさらさらないんです。

 それより入院費が心配で心配で、早く大部屋に入れて欲しかった。(つづく)