有名病院 この診療科のイチ押し治療

【在宅・入院の緩和ケア】要町病院・緩和ケア科(東京都豊島区)

要町病院の吉澤明孝副院長
要町病院の吉澤明孝副院長(C)日刊ゲンダイ

「がんになったとき、こんな病院が近くにあったら……」と思わせる特色がある。がんの早期から末期まで“いつでも、どこでも切れ目のない緩和ケア”という理想を実現させている点だ。

「緩和ケア病棟」という区分は取らず、緩和ケアの患者はすべて急性期の一般病棟で受け入れ、実働139床中70床を緩和ケア科(第3内科)の患者に割いている。在宅医療を希望すれば、併設する「要町ホームケアクリニック」が24時間、365日対応してくれる。

「病院から在宅へ、在宅から病院へと小回りのきく施設(体制)がないと、がん患者さんは地域へ帰れない」というのが、クリニックの院長を兼務する吉澤明孝副院長がもつポリシーだ。

「退院して自宅へ戻ったがん患者さんは、他の病気と違い、急にさまざまな症状が表れることがある。そんなとき、家族は不安になっていったん入院させたいと思うものです。しかし、がん基幹病院などは、終末期の患者さんは受け入れにくいのが現状です」

 多くの病院が一般病棟で緩和ケアの患者を受け入れないのは、緩和ケア病棟を設けてDPC(包括医療費支払制度方式)を採用しないと経済的にペイしないからだ。

 一方、緩和ケアを手術、放射線、抗がん剤と同列のがん治療のひとつととらえている同院では、緩和ケアが目的の入院であっても、患者が希望すれば放射線治療や抗がん剤治療も提供してくれる。吉澤副院長は「がんの統合医療的なケア」と胸を張る。

「入院、在宅のどちらでも受け入れ可能なので、がん拠点病院や緩和ケア病棟からも患者さんの依頼、紹介がきます。通院で他施設の代替医療を受けたいというケースでもウエルカムです。基本的に困っているがん患者さんの受け入れは100%OKで、これまで断ったことはありません」

 同院が、がん診療施設の機能区分で「がん難民をつくってはいけない」と緩和ケアの受け入れを始めたのが1994年。当時、同じ豊島区内にあったがん研病院で治療して再発・転移した末期がん患者の受け皿となったのがはじまりだ。まだ、緩和ケアという概念が浸透していなかった時代で、当時は「がん研の分院」と呼ばれた。

 もうひとつ、「要第2クリニック」(松﨑圭祐院長)として腹水治療センターを併設するのも同院の特徴だ。難治性腹水に対して腹水ろ過濃縮再静注法(CART)という治療を行っている。

「がん性腹水の緩和ケアは普及が遅れている分野です。従来は腹水を抜くとアルブミンなどの損失によって“抜くと弱る”といわれていたからです。しかし、松﨑先生の開発したKM―CARTによって“抜くと元気になる”治療になりました。1回に平均7リットル、最大26リットル。普通の病院では2~3リットルですから、これだけの量の腹水を安全に抜けるのは、国内では当院だけだと思います」

 CARTは2泊3日の入院で行う。全国から年間延べ800~900人の患者が治療に訪れるという。

▽昭和32年開設の地域の総合病院(150床)
◆スタッフ数=常勤医師11人(非常勤14人)
◆外来初診患者数=月間約400人(入院月間延べ人数約2400人)
◆要町ホームケアクリニックの在宅医療登録患者数=常時130~140人(在宅みとり年間約100件)