独白 愉快な“病人”たち

漫画家 槇村さとるさん(59) 更年期障害

漫画家の槇村さとるさん
漫画家の槇村さとるさん(C)日刊ゲンダイ

 女性の更年期といえば閉経前後といわれますが、私の場合は「ポスト更年期」が大変でした。

 50歳の時、駅のホームで突然全身の力がガクッと抜けるほど、ひどいめまいを起こしたくらい。51歳で閉経を迎えた頃はホットフラッシュなど更年期特有の症状は全くありませんでした。ところが、54歳で胆のうに大きな結石が見つかり手術、翌年には十二指腸潰瘍、貧血と病気が続きました。治療の甲斐あって3年後には肉体の痛みは消えたのですが、鬱々とした気分だけが残ったんです。

 覇気がないのに無理やり描いている自分への違和感。今まで無意識にできたことがこなせない。もともとワーカホリックで体力に自信があっただけに、自尊心が傷つき、自分の存在意義すら見失いかけていました。

 自分が「更年期うつ」だと気づいたきっかけは、事実婚の夫(キム・ミョンガン氏)から「私はあなたに悪いことをしましたか?」と言われたことでした。

 漫画の締め切り前にイライラすることはあっても、それを過ぎれば円くなっていたのに、ずっとキムさんにあたっていたのです。その時初めて、「ごめんなさい、私うつなんです。(半年先の)9月までほっといてください」と素直に告白しました。なぜ9月と言ったのかは自分でもよくわからないんですが……。

 自分と向き合う仕事だけに、精神の不具合に気づきやすかったし、キムさんが性人類学者という性と医学の専門家だったので、他の人より話しやすい状況ではありました。

 周囲に伝え、自覚し、早めに対応できたことはラッキーだったと思います。

 言葉にして伝えたことで、キムさんは理解を示し、つかず離れずの距離を保ってくれました。「あなたは気を使ってくれない」とご主人に八つ当たりするより、「病気であることがやましい、言いにくい」と思うより、ストレートに「私は病気です。SOSです」と言ったほうが道は開けます。

 治療法を考えた時、ふと作家の横森理香さんが、「細かな血液検査をしたら極端に少ない栄養素がわかり、それを補ったら不定愁訴が改善された」という話をされていたことや、以前、本で読んだ「ホルモン補充療法」のことを思い出し、病院を訪ねることに。ホルモンに関する血液検査をすると、女性系ホルモンがほぼゼロ。

 さらに「橋本病」という甲状腺ホルモン障害の病気だったことがわかりました。

 橋本病の治療と、植物由来のホルモン剤を取り入れると3カ月ほどで改善し、半年ぐらいでうつや不定愁訴から解放されました。

 一生に必要なホルモンの量はなんとスプーン1杯だそうです。微量ですが体全体を支配していることを初めて知りました。

 今は、できないことはあきらめる。不甲斐なさにイライラしていると肉体的にも精神的にもすごく消耗するんです。大切なのは、過去の栄光を捨てて今の自分に見合ったやり方を見つけること、だと思うのです。

 食生活ではタンパク質をたくさん取るよう言われているので、肉を食べるようにしています。でも、キムさんの好きなものを作ること、一緒に食べられることが一番です。

 そして男性の皆さん、更年期の妻は、あなたのことが嫌いなわけじゃないんです。

 私のようなケースもあるんだと心にとめていただいて、奥さんに優しくなっていただけたら幸いです。

▽まきむら・さとる 1956年、東京都生まれ。高校1年の時に「別冊マーガレット」で漫画家デビュー。90年代にレディースコミックという分野を確立させた漫画家の一人。「イマジン」「おいしい関係」「Real Clothes」などテレビドラマ化された作品も多い。42歳の時、選択的夫婦別姓制度がなされていないため、性人類学者のキム・ミョンガン氏と事実婚。更年期障害とホルモン補充療法などによる克服体験をつづった「ホルモンがわかると一生楽しい」(KADOKAWA)を上梓。