医療用語基礎知識

【心電図】病気のサインを見逃すことも

 医療ドラマに欠かせない心電計。瀕死の患者の枕元で「ピッ! ピッ!」と鳴っていたのが、突然「ピーーー」と連続音に変わった瞬間が、心臓停止の合図。しかし単に心臓が動いているかどうかなら、もっと単純な心拍計で十分です。心臓の病気や状態が、より詳しく分かるからこそ、心電計が登場するのです。

 心電図検査は、定期健診の必須項目として義務付けられています。真面目に健診を受けている人なら、毎年必ず1回は心電計のお世話になっています。

 心臓が鼓動を繰り返すとき、ごく弱い電流が発生することが知られています。電流は心臓の内側の一点から発生し、すぐに心臓全体に広まっていきます。その刺激を受けて心臓全体の拍動が起こり、血液を送り出すポンプとして機能しているのです。この微弱電流は皮膚の表面にも漏れ出してくるため、電極を使って検出することができます。それを波形として記録したものが心電図というわけです。

 健診や診察で使われている一般的な心電計は、「12誘導心電計」、略して「12誘導」と呼ばれています。つまり12種類の電流を記録するのです。ただし、使う電極は10本です。まず心臓を囲むようにして、胸の6カ所に吸盤で電極を取り付けます。次に両手首、両足首の4カ所に、大きな洗濯バサミの形をした電極を装着します。その4つの電極で、6種類の電流波形を記録します。胸と合わせて合計12種類。だから12誘導というわけです。

 心臓に異常があると、独特の波形が生じたり、波形が乱れたりします。そのパターンから、病気の有無と、病気の種類が分かります。

 ただ、健診の測定時間は1分ほどに過ぎません。しかも横になった安静状態です。ところが不整脈や狭心症は、運動時に生じることが多いため、肝心の病気のサインを見逃すこともしばしば。というよりも、健診で重大な心臓病が見つかることは、めったにないといいます。また、健診時の心電図が正常だからといって明日、心筋梗塞にならないという保証はどこにもありません。心筋梗塞は血液が固まって血栓となり、それが血管をふさいでしまう病気。心電計で血栓のできやすさまで測定するのは難しいのです。そのため「健診の心電図測定は無意味」と言い切る医師もいます。

 それに対して健診推進派の医師たちは、健診の心電図でも重症の狭心症や心肥大は分かる、だから意味があるのだと主張しています。しかし健診で見つかるほど重症な人なら、すでに医者を受診しています。まだ平気な人も、早晩具合が悪くなって医者に行くことになるでしょう。

 健診で安静時の心電図を取ろうが取るまいが、結果はほとんど同じ、ということなのかもしれません。
(医療ジャーナリスト・やなぎひさし)

やなぎひさし

やなぎひさし

国立大学理工学部卒。医療機器メーカーの勤務を経てフリーへ。医療コンサルタントとして、主に医療IT企業のマーケティング支援を行っている。中国の医療事情に詳しい。