耳鼻科の病気

鼻炎や無呼吸症候群でドライマウスに…

「ドライマウス」という病気をご存じの方も多いと思います。「口腔乾燥症」ともいい、さまざまな原因で唾液の分泌量が低下し、口の中が乾燥する病気です。

 10年ほど前から注目され始めた症状で、根本治療法は確立されていません。唾液が減ることで、口の中の乾燥や痛み、味覚障害などを起こすことが知られています。一般的には歯科の病気だと思われがちですが、実は耳鼻科に関係する病気でもあります。

 口腔内には1日に1~1・5リットルの唾液が分泌されています。耳の下やあごの辺りのぐりぐりを唾液腺といいます。唾液腺には耳下腺、顎下腺、舌下腺があり、唾液をつくり、管を通して口の中に唾液を出しています。

 ドライマウスを発症する原因のひとつに年齢があります。加齢により唾液の分泌は低下するのです。70~80歳は唾液量が若い頃の約半分に減るといわれています。

 65歳以上の高齢者の占める割合が全人口の21%を超えた超高齢社会である日本では、人口の約25%が本症に罹患しているとの報告もあり、約3000万人の患者がいると推計されています。その多くは中高年の女性です。唾液腺は性ホルモンの影響を受けやすく、女性の更年期は唾液の分泌量が減ると考えられているからです。

 もうひとつの原因は他の病気によるものです。涙腺、唾液腺などに慢性的な炎症が生じることにより、目や口腔内に乾燥症状を起こすシェーグレン症候群がその代表です。ほかに、糖尿病や慢性の腎不全が体を脱水状態にさせ、口を乾かせてしまうことが知られています。

 また、ひどい鼻中隔湾曲症や慢性の鼻炎がドライマウスを発症させることもあります。鼻に異常があると、鼻呼吸がうまくできず、口呼吸を行います。そのため、口の中が乾いてしまうのです。睡眠時無呼吸症候群の人も寝ている時に舌が落ち込んであえぐような口呼吸になってしまい、唾液が蒸発し口の中が乾いてしまうこともあるようです。

 ほかに抗うつ薬、精神安定薬、高血圧などの治療に用いられるカルシウム拮抗薬、抗ヒスタミン薬、鎮痛薬などの副作用により唾液の分泌は減るといわれています。

 万が一、あなたがドライマウスと診断されたら、原因に鼻の異常や睡眠時無呼吸症候群があるかもしれない、ということは覚えておいてください。

大場俊彦

大場俊彦

慶應義塾大学大学院博士課程外科系終了。医学博士甲種日本耳鼻咽喉科学会認定専門医。日本レーザー医学会認定専門医。日本気管食道科学会認定専門医。米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会フェロー。国際レーザー専門医。厚生労働省補聴器適合判定医・音声言語機能等判定医。日本耳鼻咽喉科学会騒音性難聴判定医・補聴器相談医。