有名病院 この診療科のイチ押し治療

【診断がつかない症状】 千葉大学医学部付属病院総合診療部(千葉市中央区)

(提供写真)

総合診療科(部)は、特定の臓器や疾患領域に限定せず多角的に診療を行う部門。症状の原因が分からない場合や、発症頻度の低い珍しい病気に対し、適切に診断をつける科でもある。
 普通の総合診療科は、かかりつけ医を持たない患者の受け皿になっている場合が多いが、同部は原則、紹介状を持つ患者を対象とし、紹介率は96%と全国でも突出している。
 紹介患者は国内にとどまらず、海外の医療機関からも“駆け込み寺(ドクターズドクター)”として頼りにされる大学総合診療部のひとつだ。
 NHKの医学情報番組「ドクターG」でもおなじみの同部・生坂政臣教授が言う。
「当部の特色は“診断に特化”しているところです。紹介されて来る患者さんは、何カ月も何年も原因が分からず悩んでいるわけですから、『様子を見ましょう』という言葉は使いません。その日のうちに診断をつけることを目標にしています」
 患者1人の診察に最低2時間はかける。専門診療科から送られてくるので、そう簡単ではないが、6~7割は初診時に診断がつくという。
 患者の疾患は大きく2つに分けられる。よくある病気でも、通常の症状の表れ方と違うケース。もう1つは、医師があまり経験しない非常にまれな病気のケースだ。

「よくある病気で見逃されやすいのは、症状の出ている場所と原因臓器が離れているような場合です。頭痛の原因がうつ病だったり、肩の痛みが肝周囲炎という性病で起きることもあります。吐血や片腕に多数できた病変が、自作自演の虚偽性障害(心の病気)というケースも結構あります」

 心のストレスは痛みの閾値を下げる。全身の痛みの原因が、飼い犬が死んだことによるペットロス症候群だったケースもあるという。

 珍しい病気でも典型症状と違う場合がある。毎月2回、決まって右膝が腫れる症状で来院した女性の場合は、周期的に発熱症候群が起こる家族性地中海熱だった。普通なら腹痛、胸痛、高熱が典型症状だが、婦人科から紹介されたことがヒントになり、生理と排卵の時期に症状が表れることを突き止めた。膝だけが繰り返し腫れる症例は日本人の患者では初めてだ。

「私たちが診察で注目するのは、患者さんが受診するまでの行動や前医の受診歴です。そこに診断のカギがあるからです。診断のつかない病気は検査で分かるのではなく、患者さんから引き出した言葉にキーワードがあるのです」

 1日に診る患者は完全予約制で7、8人。診断がついた患者は紹介先医療機関に戻す。専門医療が必要な症例であれば、同院の専門科で治療してから戻している。再診を3回くらい繰り返しても診断がつかない症例は、後で分かる場合があるので「X(未解決)ファイル」に登録する。年間4~5人が登録されるという。

 同部には、日本全国から開業前後の医師が週1回研修に訪れる。年間20人もの研修登録医を受け入れているのも、大学の総合診療部では最多だ。

 国立大学法人千葉大学の付属病院(835床)。
◆医師数=9人(うち専任2人)
◆2014年の初診患者数=903人(紹介患者率約96%)
◆最終診断で多い原因領域=心理・精神、筋骨格、全身、神経、消化器