有名病院 この診療科のイチ押し治療

【口唇口蓋裂】東京医科大学病院 口唇口蓋裂センター(東京西新宿)

東京医科大学病院歯科口腔外科の近津大地主任教授
東京医科大学病院歯科口腔外科の近津大地主任教授(提供写真)

 生まれてきたばかりのわが子に先天異常が見られたら、親のショックははかり知れない。

 顔面で最も高い頻度で起こるのが、上唇や上顎が裂けた状態の「口唇口蓋裂」だ。世界でもアジア人の発生率が高く、日本は出生児の500人に1人といわれる。

 同院では、これまでも専門的に治療してきたが、関わる診療科が産科、小児科、耳鼻咽喉科、形成外科、歯科口腔外科・矯正歯科と多岐にわたるため、患者に分かりやすいように昨年12月から新たにセンター化した。

 センター長を務める歯科口腔外科の近津大地主任教授(顔写真)が言う。

「いまは出生前診断の進歩で、口唇口蓋裂は生まれる前から発見できます。その時点で両親へのカウンセリングで治療の流れを説明します。治療は、出生直後から5つの診療科が連携して、子供の成長に合わせながら成人まで段階的に治療を行っていきます。ですから、ひとつの病院内で一貫して診られる体制が大切になるのです」

 受診窓口は小児科になり、常に全身の健康状態を管理する。最初に必ず直面する問題は哺乳の障害。上顎に裂け目があると、乳を吸うときに口の中の圧が鼻に抜けてしまい、必要な哺乳量が取れないからだ。

「生まれたらすぐ歯科口腔外科で歯型を取り、上顎の裂け目をふさぐ着脱式の哺乳床を作ります。これを装着すれば赤ちゃんが自分で乳を吸って飲むことができるようになります」

 そして、生後3カ月ごろになり体力がついてきたら、形成外科により全身麻酔下で唇の閉鎖が行われる。上顎を閉じるのは、しゃべり始める1歳半ごろ。また、口唇口蓋裂があると中耳炎を発症しやすくなるので難聴を防いだり、言語や発音の習得などに耳鼻咽喉科が関わる。

「当院での上顎を閉じる手術は、裂け目が軟口蓋(口の奥)から硬口蓋(口の前方部)に及ぶ大きい場合は、上顎の成長を阻害しないように2段階法を行っています。1回目の手術で軟口蓋を閉鎖し、5歳ごろに硬口蓋を閉鎖します。噛み合わせが関係する2回目の手術は口腔外科が担当します」

 ただし、歯の成長があるので歯茎はすぐには閉じない。5歳以降から歯科矯正を始め、7~8歳になったら歯茎に腰骨の一部を移植する手術(入院は約1週間)をして歯槽骨を修復する。さらに上顎の成長が遅れ、上顎の前歯が下顎の前歯の裏側に入り込む“受け口”になるようなら、体の成長が止まる18歳以降に顎矯正手術を行う場合もあるという。

 最も多いケースで手術は8回近くに及ぶが、同院は自立支援医療の指定病院なので治療費の助成を受けられる。手術あともほとんど目立たず、治すことができるという。

「病気が分かっても治療計画を説明すると、親御さんはホッとします。子供の将来を心配しなくていい正しい知識をもってもらい、安心して出産してもらうのが当センターの役割です」