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【女性アスリート外来】 順天堂大学医学部付属順天堂医院(東京都文京区)

順天堂大学医学部付属順天堂医院の北出真理准教授
順天堂大学医学部付属順天堂医院の北出真理准教授(提供写真)

 昨年10月に診療がスタートしたばかり。トップアスリートをはじめスポーツを行うすべての女性が健康を維持し、長期的に高い競技力を継続できるよう、総合的に支援する専門外来だ。

 主に産婦人科医、整形外科医、スポーツ栄養士が連携して診療に当たる。外来を担当する産婦人科の北出真理准教授(写真)は「女性アスリートが陥りやすい障害には無月経、エネルギー不足、骨粗しょう症があり、これらを合わせて“FAT(女性アスリートの3主徴)”といいます」と説明する。

「トレーニングの量に見合うだけのエネルギー摂取ができていなければ、月経異常や骨粗しょう症を引き起こしやすくなるのです」

 月経異常の中で、特に問題になるのは、無月経(生理が3カ月以上来ない)や月経不順。無月経は、エネルギー不足、体重減少、激しいトレーニング、持続するストレス等が原因だ。そのまま放置すると、将来的な不妊だけでなく骨量が低下し、さまざまなスポーツ障害を
起こしやすくなる。

「月経がないのは、女性ホルモンのエストロゲン分泌が低下し、排卵がないことを意味します。エストロゲンは骨の新陳代謝やカルシウム吸収に関わっていて、これが低下すると丈夫な骨がつくられなくなります」

 骨を強くできる時期は思春期に限られている。女性は12~14歳に骨密度の増加率がピークを迎え、18歳頃に骨量は最大になる。この時期に十分な栄養の摂取や女性ホルモンの正常な分泌がないと、若いうちから骨粗しょう症になり、治療が長引く場合が多い。一度、疲労骨折を起こすと、最悪の場合は選手生命を絶たれるケースもある。

「しかし、学生選手などには月経異常を気にしていない人もいて、疲労骨折を起こして初めて問題が発覚するケースがあります。コーチも無月経に問題があることは知っていても、どう対応したらよいか分からない。現時点でのパフォーマンスを優先するあまり、対応が後回しになってしまうのです」

 エネルギー摂取不足が明らかであれば、まず栄養指導を行い、月経異常や月経周期のコンディション調整にホルモン補充療法や低用量ピルによる治療を行う。子宮筋腫や子宮内膜症などの病気があれば、腹筋を傷つけず回復の早い腹腔鏡手術を検討する。北出准教授は、年間約900症例の実績を持つ産婦人科腹腔鏡チームのトップでもある。

 整形外科分野では、オリンピック日本代表等のチームドクターを務めている櫻庭景植教授も担当している。対象患者は、プロアマ問わず10代から閉経までのスポーツを行っている全女性だが、現在のところ受診患者は無月経や疲労骨折経験者がほとんどだ。

「骨粗しょう症は予防が大切です。異常がないかどうかのチェックだけでも構わないので、スポーツをする女性全般にもう少し気軽に来院してもらいたい。出産後でも選手を続けたり、引退してもコーチとして働けるようにサポートするのが私たちの役割です」

 女性の活躍が期待される東京オリンピックを控え、頼もしい外来だ。

 江戸時代の蘭方塾が起源。学校法人順天堂が運営する本院(全6施設)。
◆スタッフ数=産婦人科医2人(非常勤2人)、整形外科医3人、スポーツ栄養士1人(その他、内科やリハビリとも連携)
◆対象疾患=運動性無月経、月経不順、月経困難症、月経前症候群、疲労骨折、関節や筋肉の損傷、摂取エネルギー不足など