有名病院 この診療科のイチ押し治療

【ロボサージャン手術】 東京医科歯科大学付属病院・泌尿器科(東京都・文京区)

(提供写真)

 腎臓、副腎、前立腺、尿管、膀胱など泌尿器科領域の臓器に行われる外科手術に、「ミニマム創内視鏡下手術」という術式がある。1998年に同科で開発され、2006年に先進医療、08年からはほとんどの手術で保険適用になった。現在、全国約90カ所の病院で実施されている。開発者の木原和徳教授は「開腹手術と腹腔鏡下手術の両方の長所を生かしつつ、短所を克服する手術。泌尿器科手術の中で、とりわけ患者さんへの侵襲が少なく、安全性の高い手術」と言う。

 従来の開腹手術は腹部を20センチ以上も大きく切開することが多い。一方、腹腔鏡下手術は小さな穴を4~5カ所開けるだけで、患者の負担が少ない。

 半面、執刀医には非常に高度な技術が求められ大出血など緊急時の対応は容易ではない。そのため、医療事故の報告もなくならない。

「現在、ミニマム創内視鏡下手術で開ける穴は、切除した臓器が取り出せる大きさの直径3~4センチ前後(コイン程度)の1カ所だけ。そこから内視鏡や器具を挿入します。従来の腹腔鏡下手術は、患部を直接、肉眼で俯瞰視できませんが、ミニマム創内視鏡下手術は内視鏡モニターを見ながら手術しつつ、同時に俯瞰視もできるので、安全性が高いのです」

 仮に緊急事態が起きても、瞬時に開腹手術に変更できるのもメリットだ。しかし、同科がこれまで実施した約3000例で開腹手術に変更したケースは、特殊な例以外はないという。

 また、従来の腹腔鏡下手術よりも患者の負担が少ないのは、「炭酸ガスを使わない、腹膜を傷つけない」からだ。腹腔鏡下手術は、腸を包む腹膜の中に炭酸ガスを充満させ、スペースをつくって手術をする。

「ミニマム創内視鏡下手術では腹腔内はいじらず、鉤(先が曲がった器具)を使ってスペースをつくります。ガス注入による合併症のリスクも、術後の腸閉塞などのリスクも回避できます」

 さらに、この術式は使用する器具をどんどん進化させ、同科では12年からロボット技術を導入。頭に3Dヘッドマウントディスプレーを装着し、手にはロボット用高性能先端機器を持って、ミニマム創内視鏡下手術を行う、通称「ロボサージャン手術」と呼ぶ。

「眼鏡のように装着したディスプレーで立体視や拡大視、多画面視、超音波での誘導視など6種類の多様な視覚が得られます。先端機器は血管を切った時点で断端がシール(封止)される器具、高周波と超音波エネルギーを統合したシール器具なども使えます。つまり術者自身をロボット化する概念です」

 ロボット技術といえば手術支援ロボット「ダヴィンチ」が普及しているが、ネックは高コスト。だが、ロボサージャン手術のコストは開腹手術並み。ダヴィンチにない触覚、無ガス、腹膜温存もある。すでに欧州泌尿器科学会ではいくつも手術ビデオライブラリーに収載され、海外の評価も高いという。

「世界はダヴィンチの次を求めています。課題はハイクオリティー・ローコスト。私はダヴィンチの次の選択肢のひとつはロボサージャンだと考えています」

 現在、国内でロボサージャン手術を実施している病院は3施設。同科は、すべての手術で行っていて、2年間で約500症例になる。

 東京都文京区にある国立大学法人東京医科歯科大学が設置する医学部付属病院。
◆スタッフ数=泌尿器科医16人
◆初診患者数(2013年度)=1153人
◆ロボサージャン手術件数(13年度)=228件(腎部分切除78件、前立腺全摘41件、根治的腎摘除39件、副腎摘除22件、膀胱部分切除22件、その他26件)