有名病院 この診療科のイチ押し治療

【多剤耐性結核治療】 複十字病院・呼吸器外科(東京・清瀬市)

(提供写真)

 50年前までは「亡国病」と恐れられていた肺結核。衛生状態の向上や抗結核薬の登場で完治できる時代となり、危機意識が薄れているが、それでも毎年2万人以上が新規患者として登録され、約2000人が死亡している。

 同院は、1947年に結核予防会結核研究所の臨床部として発足した歴史があり、現在は東日本で唯一の結核「高度専門施設」に指定されている。呼吸器センター(呼吸器内科、アレルギー科、呼吸器外科)を束ねる白石裕治センター長(呼吸器外科医)が言う。

「戦後間もない頃、年間約60万人いた新規患者は現在30分の1。それに伴い、患者を受け入れる結核病床は減り、病床があっても事実上稼働している医療機関は限られます。しかも、結核を診られる医師も減り、とくに結核をはじめとする炎症性疾患の手術に精通する呼吸器外科医は貴重な存在になっています」

 結核治療は、抗結核薬を服用する内科治療が基本で、咳や痰から周囲の人にうつさないように排菌が止まるまで結核病棟に入院する。

 通常、内科治療で大半は治るが、中には薬の効きが悪い症例がある。最も強力な主要2剤の抗結核薬に耐性をもつ多剤耐性結核だ。多剤耐性率は初回治療患者の3・9%と推定され、第2選択肢の薬も効かない場合は超多剤耐性と呼ぶ。

「当センターの初回受診者の9割以上は紹介患者さんで、東日本で多剤耐性と診断されれば、だいたい当院へ送られてきます。その場合でも内科治療からはじめます。新たな薬剤耐性をつくらないように可能な限り多くの薬剤を組み合わせた多剤併用療法を3カ月ほど行い、その時点で手術の必要性を判断します」

 外科治療は内科治療の効果を高める目的で行う。結核菌に侵された肺を部分的に切除する手術の適応は主に2つ。多剤併用療法をしても排菌が持続する場合と、排菌は停止したが再発する危険性が高い場合だ。全国で実施される多剤耐性結核に対する手術の70~80%を同院が占め、治療成功率は98%という。

 もうひとつ大きな特色は、国内最大規模の非結核性抗酸菌症の診療を行っていること。非結核性抗酸菌とは、結核菌とライ菌以外の抗酸菌の総称で、症状の咳、痰、血痰などは結核と似ているが、他人にうつることはない。

「国内罹患者は増加傾向にあり、結核より多いといわれています。しかし、この病気を知らない医師も多く、結核や気管支炎と間違われて紹介されてくる患者さんは多い。治療は、抗菌薬などを使う内科治療が第1選択ですが、薬でよくならなければ手術対象になります」

 非結核性抗酸菌症の外科治療は、国内の多くの施設では年間数件あるかないか。同科では年間20~30件をこなす。米国の胸部学会のガイドラインで同科の外科治療の論文が2本引用され、海外でも高い評価を受けている。術式は結核手術ともに、胸腔鏡を利用して小さな傷で低侵襲の開胸手術をする胸腔鏡補助下手術を積極的に行っている。

「いまは当科も肺がん手術が年間約100例と最も多いのですが、炎症性疾患の手術に関しては国内の“最後の砦”という気概をもち診療にあたっています」

 公益財団法人結核予防会が東京・清瀬市にもつ中核病院(全339床、うち結核病床60床)
◆スタッフ数=呼吸器外科医5人
◆年間手術件数(2013年度)=209件(うち結核などの炎症性疾患49件)