しなやかな血管が命を守る

【抹消動脈疾患】 突然の手足の痛みと冷感でパニックに

東邦大学佐倉病院の東丸貴信教授
東邦大学佐倉病院の東丸貴信教授(C)日刊ゲンダイ

 血管は年齢とともにもろくなります。高血圧症、糖尿病、脂質代謝異常症やメタボリック症候群といった生活習慣病や喫煙習慣があれば、動脈壁にコレステロールなどの脂質がたまり石灰化も伴い動脈が硬化します。では、動脈硬化が進むと何が起こるのでしょうか?

 多くの人は「脳卒中」や「狭心症・心筋梗塞」といった重大病をすぐに思い浮かべるのではないでしょうか。なるほどこれらの病気は突然死や深刻な後遺症を招く重大病です。気になるのは当然です。

 しかし、それと同じくらい忘れてならないのは手足などの末梢の動脈硬化が進む、「末梢動脈疾患」(Peripheral Arterial Disease=PAD)です。以前は閉塞性動脈硬化症(ASO)と呼ばれていました。とくに下肢の動脈に多く見られます。

 病気の頻度は2~29%といわれ、米国で約1000万人以上、日本では50万~100万人くらいの患者がいると推定されています。70歳以上に限ると15%以上、高齢の糖尿病患者では50%以上との報告もあります。

 その主な症状は「痛み」です。下肢の動脈が狭くなり血流が減るため、歩くと足の痛みや痺れが出て止まると良くなる症状(間欠性跛行)が有名で、重症度はFontaine分類で分かります(I無症状、Ⅱ間欠性跛行、Ⅲ安静時痛、Ⅳ潰瘍・壊死)。

 また、重症になると潰瘍や足が腐ってしまうこともあります。下部大動脈や両側総腸骨動脈が狭くなると、お尻と両大腿部が痛くなるタイプの間欠性跛行と、両足が冷たく白くなる症状が生じ、レリッシュ症候群とも呼ばれます。

 とはいえ、“手や足の細い血管が詰まったとしても生死に関係ないのでは”と考える人がいるでしょう。しかし、それは間違いです。

 末梢動脈疾患の発症は全身の動脈硬化が原因です。手や足の動脈が詰まっているということは心臓や首の血管といった他の血管も狭くなっているケースが決して珍しくないのです。

 実際、約7万人の患者が対象となった世界最大の「REACH研究」報告では、末梢動脈疾患の患者の50%に冠動脈疾患が、25%に脳血管疾患が認められています。しかも、患者の60%がいくつもの血管と臓器の病気を抱えていたのです。

 恐ろしいことに重症の末梢動脈疾患の人の5年間の死亡率は3割と報告されています。仮に足全体(下肢)の症状が軽くても、その後の経過(予後)は決して良くありません。これは、下肢の症状の悪化のみでなく、冠動脈や脳血管疾患による死亡率が非常に高いためです。

 足の動脈だけでなく、腕、腎臓、上腸間膜動脈などにも動脈硬化は起こります。腕の動脈の硬化はまれですが、手の痺れや脱力がみられます。上腸間膜動脈が徐々に詰まってくると食後にお腹が痛くなり、食欲が落ちて体重も減ってきます。腎動脈が徐々に詰まると腎血管性高血圧症や腎不全になります。

 動脈硬化が進み、動脈が徐々に狭窄していく場合は、急に強い症状は出ません。しかし、これらの血管が突然詰まると、激痛、冷感、痺れや麻痺が生じます。これは、動脈硬化で狭くなっているところに血栓という血の塊ができ、ほぼ完全に血流が途絶えるためです。

 腕、下肢や腹部の動脈の急性閉塞では、それぞれの場所の体の組織が死んでしまうので、緊急手術が必要です。腎動脈が詰まり腎梗塞が起こると、痛み、血尿や腎不全がみられます。

 このように放置すると本当に恐ろしい病気ですが、今は、腕と足の血圧の比である足関節上腕血圧比(ABI)、血管の超音波検査、MRI血管検査、造影CT検査などで早めに診断できます。

 70歳以上か生活習慣病や喫煙などリスクのある方は、循環器ドックなどで全身の血管をチェックしてもらうことをお勧めします。

東丸貴信

東丸貴信

東京大学医学部卒。東邦大学医療センター佐倉病院臨床生理・循環器センター教授、日赤医療センター循環器科部長などを歴任。血管内治療学会理事、心臓血管内視鏡学会理事、成人病学会理事、脈管学会評議員、世界心臓病会議部会長。日本循環器学会認定専門医、日本内科学会認定・指導医、日本脈管学会専門医、心臓血管内視鏡学会専門医。