“鼻血で病院に来る人がいるんですか?”――。患者さんと雑談していてビックリされることがありますが、本当です。
鼻血というと、一般的に鼻をほじったり、鼻毛を抜いたり、鼻をぶつけたり、殴られたりした時など、鼻の中が傷つけられて出血するイメージがあります。
しかし、それは鼻出血の原因のほんの一部に過ぎません。花粉症を含めたアレルギー性鼻炎や鼻副鼻腔炎による炎症、あるいは、鼻中隔の湾曲や斜鼻などの構造的なもの、小児に多い鼻の中の異物、全身性の血管炎であるウェゲナー肉芽腫症などによる鼻中隔の穿孔……。出血するケースはたくさんあるのです。
麻薬の吸引で鼻腔の内部を左右に仕切る壁である鼻中隔に穴があく鼻出血も報告されています。むろん、鼻、副鼻腔、上咽頭の良性や悪性の腫瘍が原因の場合もあります。
厄介なのは全身性疾患があるケースです。最も多いのが高血圧です。血管がぱんぱんに張っているので、出血しやすく、ちょっとしたことで血管が破裂して出血します。他には血管が硬くなる動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病、肝臓や腎臓の病気による鼻血もあります。
脳梗塞や心筋梗塞の治療薬であるワーファリンやバファリンなどの“血をサラサラにする薬”が、原因になることもあります。薬の性質上、血が止まりにくくなってしまう場合があるのです。老人の方の内服が多いので、見逃すことがないように治療していきます。
他には血液自体の病気である血小板の減少や、白血病、血友病、遺伝的な血管の病気が原因となることもあります。
よく「鼻出血は脳出血の症状のひとつでしょうか」という質問を受けるのですが、脳からの出血が鼻に出てくることはなく、経験上も一例もありません(脳梗塞等の治療として抗凝固作用の薬を服用している方は、鼻出血だけでなく脳出血も止まりにくくなります)。
耳鼻咽喉科の専門医は、既往歴を含め、出血部位や出血状態を見て、単純な出血か否かを判断しながら診断していきます。
私自身の経験として、鼻出血とのことで他の大病院から紹介されたものの、実は食道の静脈瘤からの出血というケースもありました。
耳鼻科の病気