「特養やグループホームなど、どんな老人ホームでも、入居者が最も生きがいを感じる時は何か分かりますか。1日3食の食事ですよ」
こう語るのは、介護福祉士で、東京都下の某市で福祉行政協議会委員を務めている高橋幸雄さん(仮名、62歳)である。
今日はどんな食事が出るのか。カレー、コロッケ、焼き魚、日本そば……。食堂の壁に1週間分の献立表が張られ、食事に介助が必要な高齢者の隣には、介護士や職員たちが座る。
「社会福祉法人などが運営する特養老人ホームが健全な経営を行うためには、この食事の出費が大きな課題になります。介護保険負担限度額の食事代は、入居者の年金支給額、または個室やユニットによっても細かく分かれていますが、だいたい1カ月9000円からあります。また、認知症が進んでいるグループホームの入居者の場合、個人負担の食事代は3万円ほどですね」
高橋さんは関東圏にある多くの老人施設を見学してきた。その中には、事業主が少しでも利益を浮かすために、3食の食事内容を冷凍食品にするケースが少なくないという。
1日3食、入居者に手作りの料理を提供するには、人件費や食材コストの出費が大きくなる。それなら手っ取り早い冷凍食品で済まそうということになるのだそうだ。
コストといえばもう1点、高齢者と医薬品についても、こんな問題があるという。
厚労省が7日、国民の医療費を発表した。2013年度に使われた医療費は、前年度よりも8493億円多い40兆610億円。7年連続で増え、初めて40兆円を突破した。
1人当たりの医療費は年間31万4700円。政府は「どこかに無駄はないのか」と血眼になって探しているが、最近はその矛先が老人施設に向かっているという。
特養老人ホームには平均して毎月1回、契約している病院の医師が往診のために訪ねてくる。または決められた日に、入居者が職員に引率されて病院に出向く。
「診察は聴診器を胸と背中に当てて、あるいは血圧を測ってほぼ終わりです。その後、薬を1カ月分ほど渡されますが、血圧の薬、精神安定剤、睡眠薬、その他もろもろが大量に処方される。私は医学には素人ですが、長年、高齢者を見てきて、『この人にこの薬はもう不必要』と思うことがあります。それでも処方されます。これは実に無駄な薬でないかと思うのです」
医療費は個人負担で、診察代、医薬品代は入居者が支払うことになる。そのため、入居者も知らず知らずのうちに、予想外に多い医療費を支払っている場合もあるのだ。医薬品については、別の問題もある。
薬を飲み忘れて、べッドの横に山のように残していたり、逆に1週間分を1日で服用する入居者もいるために、薬の服用には介助が欠かせない。
「医師から“飲みなさい”と薬を渡されたら、特に医学知識が薄れている高齢者はありがたく受け取ってしまう。私はある入居者のために、明らかに必要がないと思った薬を袋ごと捨ててあげたことがありました」
よほどしっかりした老人施設を選ばないと、入居者は、あらゆる業者の“いいカモ”にされる。
介護の現場