最新がん治療の「陽子線療法」 どんな場合に受けるべきか?

難易度の高いがんこそ有効
難易度の高いがんこそ有効(C)日刊ゲンダイ

 著名人の相次ぐがん報道を目にして、「もし自分ががんになったら……」と改めて考えた人も多いだろう。そんながんの最新治療のひとつが、陽子線療法だ。保険が適用されず、300万円ほどが全額自己負担になるが、その価値はあるのか? 2009年に厚労省から先進医療実施施設の認定を受けた「南東北がん陽子線治療センター」(福島県)の中村達也副センター長に聞いた。

 陽子線は放射線治療のひとつ。放射線治療にはX線と粒子線があり、一般的に知られる放射線治療はX線で、陽子線は粒子線になる。

「2つの違いは、放射線ががんを突き抜けるかどうかです」

 X線は体内を通過すると次第に減速する。がんに強い放射線を当てようとすると、その手前にある正常組織に、がんに当てるよりもさらに強い放射線が当たり、がんを通り過ぎた後にも放射線は照射される。

「一方、粒子線は体内を進んだ先で高いエネルギーを発揮し、消滅します。だから、X線より強い放射線をがんに照射でき、正常組織へのダメージも小さくできる」

 ただし、陽子線治療センターの副センター長という立場ながら、中村医師は「陽子線が一番、というわけでは決してない」と強調する。

「X線にも、正常組織への照射を極力少なくした強度変調放射線治療があり、がんによっては十分な効果を発揮します。実際、当センターでは、陽子線だけでなく、強度変調放射線治療も行っています。病変の部位によって、よりよいと思われる方を選んでいます」

 肝臓がん、肺がんなど胸や腹にあって呼吸で動く臓器は強度変調放射線治療が難しい。こうした臓器に対し、がんにより限局して放射線を当てられる陽子線療法は、そのメリットを十分に生かせる。数年後に出てくる障害(晩期障害)を軽減できる可能性もある。

「当センターでは、進行した頭頚部のがんに対し、がんの栄養を運ぶ動脈に高濃度の抗がん剤を直接注入する動注化学療法などと組み合わせ、強度変調放射線治療あるいは陽子線の照射を行っています。しかし、それでも必ずしも全員がうまくいくわけではないということを患者さんに説明し、理解してもらっています」

 粒子線は夢の治療のようにいわれているが、進行したがんに行うことが多く、副作用が全く出てこないケースは少ない。口が開きにくくなるなどの障害が起こることもある。治療後、放射線治療医がきちんと定期的に経過観察を行っているか。副作用が出たら対処してくれるか。再発しても対処してくれるか。陽子線療法を受けたいと考えたら、これらが病院選びのポイントになるという。

「陽子線療法を行う医療機関の中には、陽子線は照射するが、その後に再発や障害が出ても、『地元の医療機関で対処してもらって下さい』というところもあるのです。自分たちが治療した患者の再発や副作用と向き合わない放射線治療医は、うまく治らなかった患者からの苦情を直接聞くことがないため、同じ誤りを繰り返します」

 どのがんに対して陽子線療法を行っているかもチェックした方がいい。前述のとおり、陽子線は難易度の高いがんほど適している。一方、陽子線でなくても、ほかの治療法で高い成績を出せるがんもある。

「一例を挙げれば、前立腺がんがそうですが、“陽子線療法を最も多く行っているのは前立腺”という医療機関が実は多いのです」

 患者が希望した上でのことならいいが、ほかの治療法との比較を知らずに高額のお金を出したというのなら、ハッピーではないだろう。

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