独白 愉快な“病人”たち

タレント 稲川淳二さん (66) 前立腺がん ㊤

(C)日刊ゲンダイ

 3年前の9月。それは、夏の怪談話の東京公演の最終日でした。DVDの収録も兼ねていたので、怪談の本数を多くして立て続けに話したんです。すると途中でね、クラーッとしたかと思ったら、セリフが飛んでしまいました。その場はなんとか取り繕ったけれど、もう30回以上も話している内容なのに頭の中が真っ白。こりゃ高血圧のせいだと周囲が騒いだ。

 高血圧は30年以上のベテラン。高血圧の中年を集めたテレビ番組に出演したら、私が血圧200を超えていて誰よりも高血圧だったことがありましてね。そんな経歴があるから、周囲はすぐ高血圧を疑ったわけです。それで医者の友人に頼んで血液検査をしてもらったら、高血圧じゃなくて前立腺がんの疑いが出た。

 自覚症状は全くなかったけれど、60歳前から尿の切れは悪かったね。トイレで小便をしていると、70代ぐらいの人が「最近、年のせいで尿の切れが悪くて……」なんて話して出て行った。こっちはその間ずっと用を足しているんだから、イヤになっちゃうよ。

 要は、精液をつくる畑が枯れて、畑を広げないといけないから前立腺が肥大する。がんにもなる。加齢性のものだと思っているから、怖くもないし、手術もなんとも思いませんでしたね。

 前立腺は進行の遅いがんなので、あと2~3年持てばいいと思っていました。すると医者の友達から、「70歳ならもうそのままでもいいけど、60代であえて放置して寿命を縮める必要もないだろう」と言われて、それもそうだなと。

 結局、年を越した2月に東京医科大学病院で「ダヴィンチ」という医療用ロボットによる内視鏡下手術をしました。いってみればUFOキャッチャーの医療版みたいなものです。

 ダヴィンチの利点は、手術によるダメージが少ないこと。患部を大画面に映し出して、ロボットアームを医師が別室で操作するため、患部を大画面で見ながらピンポイントで切除することができ、出血が少ない。手ブレの心配もなく、大事をとって多めに切除することもないそうです。

 前立腺がんは、がんそのものより出血が多いのが問題。この年で出血したら、そう簡単に体力が戻らない。開腹手術なら術前に自分の血をストックしておいて、手術中に輸血するのですが、その必要もなく、とにかく体に負担が少ない手術でした。

 術後目が覚めると、無意識に起き上がれている自分に驚きました。手術したばかりなのに、腹筋を使って普通に起きられるんですよ。傷口を見ると、ホクロを取ったのかと思う程度の小さな穴が6カ所あいただけ。もう傷口がふさがりかけているように見えました。

 我ながら手術したばかりの人間とは思えませんでした。6カ所の手術痕にヘソを加えて北斗七星ができたなんて言いながら笑ってね。

 当時、ダヴィンチは先進医療で自費治療でした。おかげで治療と個室代で200万円以上と大きな出費。幸い、女房が私に医療保険をかけていたのでそれでまかなえました。でもね、女房は私が死んだら自分にたくさん金が入るようにいっぱいかけていたわけですよ。イヤ~、怖い怖い!

 そのダヴィンチが、2カ月後の4月に前立腺がん手術で高額療養費扱いになり、なんと10万円台で済むようになったんです。

 だったら急がないでもう少し待てばよかったな、なんて思いましたね。

(つづく)