独白 愉快な“病人”たち

講談師 一龍斎 貞水さん (74) ㊤

(C)日刊ゲンダイ

 66歳で膀胱がん、71歳で肺がん、ついでに昨年は前立腺がんもやっつけて、高座を務められているのは私だけなんですよ。

 初めは膀胱がん。ちょうど人間国宝の認定を頂いて忙しかった頃、スイカの汁みたいな尿が出ることが時々あった。でもそんな尿が出る時は、前の晩に酒を飲んでいるし、周りの芸人仲間に言ったところで飲みすぎか、何か悪い遊びでもしたんじゃないか、なんて言うくらい。それから2、3年放っておいた。

 するとある日、シャーッと尿の出がいいと思ったら鮮血が出た。洋式便器だからたまった水の赤さがそりゃすごかったね。泌尿器科に行ったら、面白い医者で「立派ながんです。うちじゃ手に負えないですから大学病院を紹介します」と言う。

 たばこは若い頃から吸い始め、67歳までチェーンスモーカー。1日3~4箱は吸ってたね。酒は金が入ればいつでも。40代で胃潰瘍を患っても、生活を悔い改めることはなかった。潰瘍になったヤツはがんにならないって聞いているから、俺はがんにならないと思っていたんだよ。その話を医者に言うと、「潰瘍が悪化するとがんになるんです。バカ言っちゃいけません」って怒られました。

 膀胱の手術は、尿道から内視鏡を入れて、もう1カ所くらい穴を開けて、ピンポン玉ぐらいのがんを取ったよ。松田優作さんも同じ膀胱がんでしょ? 彼の場合は転移していたから若くして逝ったけれど、俺の場合は悪運が強くてね。根が張ってないがんだった。これだけ大きいのに根が張ってないのは珍しいって言われましたよ。

 手術よりも、あとの治療が痛かった。尿道から薬を入れると、何かの拍子にチリチリチリッととんでもない痛みに襲われる。講談師は釈台(机)があったのが幸い、涼しい顔して講談をやりながら、下半身は七転八倒でしたよ。

 膀胱がんから5年経ち、もう大丈夫か、確認に全身PET検査をしたら今度は肺がんが見つかった。毎月採血してるのに、血液だけじゃ分からないもんですね。

 私の仕事を考えて、医者はあまり切らずに済む方法を提案してくれました。

 ひとつはラジオ波。狙いをつけて電子レンジみたいに「チン!」って退治する方法だそうで。で、もうひとつは、患部切除。ラジオ波は他の病院に行かなきゃ設備がないというので、切除を選びました。

 切るのは大したことないが、がんの位置が問題でね。肺の動脈のそばにがんができていて、動脈にも根を張っているかもしれないというんです。もしそうなると、手術中に人工心肺を使う大手術になると脅された。でも、何のことはない。がんをピンピンッて揺さぶったら剥がれたって。悪運が強いんだよ。

 その後は抗がん剤治療。医者にもつらいと言われたけれど、昔から酒ばっかり飲んで二日酔いが常。吐き気も倦怠感も慣れていたからちっとも苦じゃなかった。それに、高座に上がると病気なんてすっかり忘れますからね。抗がん剤治療中も休まず仕事を続けました。

 もちろん副作用はありました。体毛からまつ毛まで、毛という毛は全部抜けた。そしたら医者がね、「頭はそのせいじゃありません」って言うんだよ、ワッハハ。ハゲてるのはオレが分かってるよ。

(つづく)