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【悪性脳腫瘍の光線力学的療法】東京医科大学病院脳神経外科(東京・西新宿)

東京医科大学病院脳神経外科の秋元治朗教授
東京医科大学病院脳神経外科の秋元治朗教授(提供写真)

 これまで難しかった悪性脳腫瘍の治療に光が見えてきた。同科が約10年前から開発を進めてきた悪性脳腫瘍に対する「光線力学的療法(PDT)」が、昨年1月1日に保険適用されたからだ。すでに早期肺がんなどで実用化されている治療法だが、悪性脳腫瘍に対する認可は世界初のことだ。

 悪性脳腫瘍の治療チームを率いる秋元治朗教授(写真)が言う。

「PDTは、開頭手術と併用して行います。手術前、患者さんに腫瘍組織や新生血管に集積する光感受性物質を注射します。その後、開頭して腫瘍を切除、事前に投与した光感受性物質が集まっている箇所にレーザー光を照射します。すると、光化学反応によって活性酸素が発生し、手術で取り切れなかったがん細胞が死滅するのです」

 悪性脳腫瘍の治療が難しいのは、がん細胞が脳に染み込むように広がるため、手術で取り切れないことが多いからだ。その難点を克服するPDTの最大のメリットは安全性。光感受性物質ががん細胞だけに集まるので、正常な細胞を傷つけるリスクがほとんどない。

「一般的に使われる高出力のものではなく、手をかざしてもほとんど熱さを感じないレーザー光を用います。治療適用は初発・再発を問わず、原発性であればすべての悪性脳腫瘍が対象になります」

 光感受性物質もレーザー機器もすべて国産品のオールジャパン医療である。世界で最もいい成績を挙げた報告例は治療1年後の生存率が約60%で平均生存日数は約15カ月。

 対して、2009年から同科が東京女子医大と共同で行った13症例の治験データは、治療1年後の生存率が100%で平均生存日数は約25カ月。飛躍的に伸びた延命効果が今回のスピード認可につながった。

「治験では、レーザー光の照射を1~2カ所のみの条件で行われました。実際の治療では1回3分、平均4~5カ所照射します。術後に放射線治療を週5回、6週行うので入院は2カ月くらい。通院できる人は1カ月ほどで退院できます」

 保険適用以後のPDT実施数は15症例。退院後は抗がん剤の内服を続けながら、2カ月に1回の検査が必要になるが、患者の8割方は元の生活に戻り、社会復帰しているという。

 PDTは、日本脳神経外科学会の講習会を修了した医師なら行える。ただし、現在、全国で実施している医療機関は同院と東京女子医大の2施設のみ。

 いくつかの大学病院が準備を進めているところだ。

「PDTの弱点はレーザー光が深さ1センチ未満しか届かないことです。ですから、いかにレーザーが届く範囲内までがんをきれいに取り除けるか、執刀医の腕も重要になります。目標は、悪性度の高い脳腫瘍の膠芽腫の5年生存率を50%(現在は8%以下)に引き上げること。この先、このオールジャパンの新治療法が、国際標準になることを期待しています」