薬に頼らないこころの健康法Q&A

不登校の“息子”にどう接するか?

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授
井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(提供写真)

【Q】
 中学3年男子の母親です。クラス替えがあってからなじめず、5月の連休明けから休みがちになりました。しばらく学校の相談室に通っていましたが、カウンセラーの先生と話しても効果がなく、完全に不登校になりました。今は、昼前に起きて、市の適応指導教室に通っています。先生方からは、「プレッシャーをかけるな」と言われていますが、このままでいいのか心配です。

【A】
 本人を自殺に追い込むようなプレッシャーはいけませんが、適度のプレッシャーは必要です。まず、本人に伝えるべきは、「学校に行くか行かないかは、生死を懸けるような大問題ではない」ということ。中学校に行かなくても死ぬようなことは絶対にありません。そのことを伝えたうえで、本人の背中を押してみましょう。

 ご子息は教室になじめなくて不登校になったとのこと。この点は重要で、「なじめないのに無理して教室にいる」「違和感を感じながら学校の片隅で過ごす」という経験を持つことが思春期には大切なことです。

「なじめない」とか「違和感」といった感情は、徐々に自分というものができつつある証拠です。

「今、ここで仲間たちと過ごしているけれど、実は、僕、全然楽しんでいない」

 そんな思いを秘めながら、しかし、顔だけは笑って浮き上がらないようにしている……こんな経験を中学生は皆しています。

 思春期とは、「自分ひとりと他者全員」「小さな自分と大きな世界」といった不均衡な関係の中に投げ込まれる世代です。それは「不安」です。でもこの不安は、それこそが自分というものができつつある証拠なのです。ある程度は不安に耐えて、自分自身を鍛えていくべきだと思います。

 本紙の読者は皆大人ですが、では、あなたは職場に本当になじんでいるでしょうか。そうではなく、むしろ“完全になじんではいないが、波風を立てても仕方がないので静かに笑ってそこにいる”というのが本当のところでしょう。

 この“なじめなさ”に大人たちは慣れっこです。もはや強い不安を抱くことはありません。一方で、思春期の生徒たちは、ついこの間までは自分と世界が矛盾なく調和した子供の世界に生きていました。だから、違和感自体が未曽有の経験です。おそれ、おののくのも無理はありません。

 ともあれ、具体的な打開策を2点ほど。

 第1に、昼夜リズムを正常化すること。中学生にとっての必要な睡眠時間は、8~9時間程度。それを通常登校する生徒たちと同じ時間帯にしましょう。7時には起床し、それに合わせて午後10時から11時には就寝することが大切です。

 第2に、勉強の遅れを取り戻すこと。個別指導の塾でもいい。家庭教師でもかまいません。何であれ勉強を再開することです。来春には高校受験があります。受験とは言い訳無用で勝負しなければいけない機会であり、このような「逃げてはいけない状況が人生にはある」という事実を思い知る上でも、受験は大切なイベントだといえるでしょう。

 ご子息にとって最悪なのは、引きこもってしまうことです。10代に家族以外の誰とも接しない数年間を持つことは、成長にとってマイナスになります。この世代は、他者に対して少しの警戒感を持って付き合うという経験を持つべきです。その経験こそ、大人になってからの精神的な財産になります。最低でも、適応指導教室とは細く長くつながっておくことが必要でしょう。

井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。