天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

ストレスが心臓病のリスクをアップさせる

順天堂大医学部の天野篤教授
順天堂大医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

Q 心臓病になりやすい人には何か特徴はあるのでしょうか? 性格や仕事によっても違いはありますか?(40歳・男性)

A かつて欧米で行われた研究では、「野心的で、すぐイライラしてカッとなる性格の人」は心臓病になりやすいという報告があります。そうでないタイプの人と比べると、男女とも狭心症や心筋梗塞を発症するリスクが2倍以上も高いという結果が出ました。

 職業については、厚労省が調査を行っています。心臓病で亡くなった20~64歳の現役世代の死亡時の職業を分析したところ、いちばん多かったのは「無職」でしたが、次いで「サービス職業従事者」、「専門的・技術的職業従事者」の順に多かったという報告があります。

 職種とは関係なく、時間外労働や長時間労働が多い人は心筋梗塞の発症率が高いこともわかっています。1日11時間以上働いている人は、7~8時間の人に比べると急性心筋梗塞の発症率が2.4倍にアップします。また、週61時間以上働いている人は、40時間以下の人に比べて急性心筋梗塞の発症率が2・1倍も多くなりました。

 心臓病になりやすい性格と仕事、この2つに共通するキーワードは「ストレス」です。

 ストレスを受けると交感神経が優位になり、興奮に関わる神経伝達物質のアドレナリンが大量に分泌されます。アドレナリンは心拍数を増加させたり、血流を増やして血管を収縮させるため、血圧が上昇します。それだけ、心臓の負担が増えて疲弊してしまうのです。

 また、ストレスによって過食が引き起こされると、肥満を招き、高血糖や高脂血症にもつながります。高血圧、高血糖、高脂血症は、いずれも代表的な心臓病の危険因子です。すべてが同時に揃っていなくても、ひとつが誘因になっていくつも積み重なり、心臓病になりやすくなるのです。性格や職業そのものではなく、性格や職業が心臓病を引き起こすさまざまなリスク因子を増やしてしまうと考えていいでしょう。

 性格や仕事に関係なく、心臓病になりやすい特徴もあります。これまでの経験から、「頭頂部の毛髪が薄い」「胸毛が生えている」「小太り体形」の3つに当てはまる人に心臓病が多いのです。

 頭頂部の薄毛と胸毛は、男性ホルモンの増減が関わっていると考えられます。毛髪が薄かったり、胸毛がある人は、男性ホルモンが優位な人といえます。それが、加齢によって男性ホルモンの量が急激に減ってくると動脈硬化が進みやすくなるのです。実際、小児期に睾丸を手術したり、放射線治療を受けたことがある人は男性ホルモンの量が少ないケースが多く、それだけでも年をとったときに動脈硬化が促進されます。

 動脈が硬くなり、血管の内側が狭くなって血液が流れにくくなる動脈硬化は、心筋梗塞、狭心症、大動脈解離といった心臓病の大きな原因です。思い当たる人は、生活習慣を改善して動脈硬化を予防しましょう。

 また、「小太り体形」は、メタボリックシンドロームと関係しています。内臓脂肪型肥満と、高血圧、高脂血症、高血糖が2つ以上重複して起こっている状態で、これは前述したように心臓病の危険因子です。中でも、高血糖を放置していると、血管の全体が細くなって血流が途絶してしまうタチの悪い動脈硬化がどんどん進んでしまいます。心臓カテーテルの草分け的存在だった著名な医師も、血糖コントロールが悪い状態が続き、突発性心室細動によって急逝されました。まだ67歳の若さでした。循環器のエキスパートでも、高血糖による動脈硬化は止められないのです。

 働き盛りの年代での突然死を回避するためにも、該当する人は生活習慣の見直しや、場合によっては治療を受けたほうがいいでしょう。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。