Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【患者数急増の大腸がん】予防する生活習慣とアスピリン

日本人の「メタボ化」で患者数急増
日本人の「メタボ化」で患者数急増(C)日刊ゲンダイ

 大腸がんに関する話題が相次いでいます。昭和の大横綱・北の湖敏満さん(本名・小畑敏満=享年62)は大腸の一部、直腸のがんによる多臓器不全で亡くなり、ピアニスト・中村紘子さん(71)は大腸がんによる休養を延長しています。今年5月に亡くなった俳優・今井雅之さん(享年54)の命を奪ったのも、大腸がんでした。

 こうした報道が続くのは、決して偶然ではないでしょう。今年の予測で部位別がん患者数は約13万6000人でトップ。戦後から患者数が最多だった胃がんを抜いた意味は大きい。胃がんのすべてとは言いませんが、ピロリ菌の感染が原因のひとつで、感染型のがんの典型です。

 一方、大腸がんは、肉中心の食事や肥満、運動不足といったメタボに直結する生活習慣が大きな原因で、これまで欧米に多いがんといわれていました。それが、日本で患者数トップになったということは、まぎれもなく日本人のメタボ化を意味しています。

 海外の研究ですが、ハムやソーセージなど加工肉をよく食べる人は、大腸がんの発症リスクが18%アップするという報告がありました。日本はもとより世界的なメタボ化と大腸がんの増加傾向にマッチする結果です。日本人を対象にした研究でも、肉全体の摂取量を控えた方が、大腸がんのリスクが低下する傾向がうかがえますから、脱メタボの食事と運動不足の解消が大腸がんの予防になります。お酒の飲み過ぎも要注意です。

 大腸がん予防には、生活習慣の改善が大切なのですが、もうひとつ注目のニュースが。アスピリンが大腸がんを予防する可能性があることから、国立がんセンターや京都府立医大のグループが臨床試験を始めたのです。

 事前の研究により、アスピリンを飲んでいるグループは、飲んでいないグループに比べて、大腸がんの前兆であるポリープの再発が40%低下。たばこを吸わない人に限ると、60%以上下がることが分かっています。この結果から、大腸がんの予防効果も期待できるのではないかと考えられたのです。

 アスピリンといえば、鎮痛剤の“代名詞”のような存在ですが、この試験のアスピリンはちょっと違います。鎮痛剤として使われる容量は、大人で1日1000~4500ミリグラム。これよりも少ない1日40~100ミリグラムを服用すると、血栓を作る血小板の働きを抑えることが分かり、脳梗塞や狭心症の予防薬として使われています。臨床試験の容量も、抗血小板薬としての容量と同じです。

 古くからある薬で、薬価も安い。それで、本当に大腸がんを予防できるなら画期的。注目したい試験です。

 ただし、今回の試験で使われているのは、あくまでも抗血小板薬と同じ容量で、アスピリンが含まれる市販の鎮痛薬とは違いますから、くれぐれも市販薬をやみくもに飲み過ぎないでください。飲み過ぎると、アスピリン潰瘍といって、胃の粘膜がただれ、潰瘍ができることがあります。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。