Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【飲酒の影響】“百薬の長”の目安は1週間で日本酒14合

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 この時期は、お酒を飲む機会が増えます。今回は、がんとお酒の関係について紹介します。アルコールには、血液サラサラ効果による血栓抑制効果などプラス面もありますが、がんとの関係にフォーカスします。

 飲酒との関係が深いがんは、大腸がんや食道がん、咽頭がん、肝臓がん、乳がんなど。たとえば大腸がんの場合、日本酒換算で毎日1合以上飲む人は、飲まない人に比べて発がんリスクが1.4倍、2合以上で2倍、4合以上だと3倍です。

 今年、大腸がんで亡くなった俳優・今井雅之さん(享年54)は酒豪で有名で、胆管がんで命を落とした女優・川島なお美さん(享年54)は、ワイン通でした。

 日本酒1合分のアルコールは、ビールなら中瓶1本、ワインならグラス2杯弱、ウイスキーならダブル1杯、焼酎ロックなら半分程度。ビール中瓶を1本、焼酎ロックを2杯飲むとすると、日本酒換算で5合。男性のがん患者のうち、13%は毎日2合以上の飲酒が影響しているといわれていますから、お酒好きの方は要注意です。

「オレは休肝日を設けているから大丈夫」という人がいるでしょうが、がんと飲酒の関係を見る上で問題なのは、1週間のアルコールの総摂取量です。“百薬の長”となる目安は、日本酒換算で1週間14合。それでも1週間で1升以上飲めると分かれば、うまく休肝日を設けながら、楽しい飲酒ライフを描けるのではないでしょうか。

 休肝日はないよりある方がベターですが、1週間の摂取量が日本酒換算で21合を超えると、休肝日はあってもなくても関係なし。2升を超えてはいけないのです。

 日本人はじめアジア人は、アルコールを分解する過程でできるアセトアルデヒドを解毒する酵素の働きが強い人と弱い人がいます。解毒を担うのがアセトアルデヒド脱水素酵素2で、人によって両親から受け継ぐ型が違うのです。

 両親から分解力の強い遺伝子を受け継いだ人が正常型で、弱い遺伝子を受け継いだ人が欠損型。欠損型には、どちらか一方が欠損型の部分欠損型と、どちらも欠損型の完全欠損型があります。

 いわゆる下戸は完全欠損型で、日本人の5%。この人はまったくお酒が飲めないので、飲酒による発がんの心配はありません。怖いのは、3人に1人が当てはまる部分欠損型の人。お酒を飲むと顔が赤くなる人が、このタイプ。発がん物質のアセトアルデヒドが分解しきれずに残って、顔が赤くなるのです。

 常に顔が赤くなる人はもちろん、飲み慣れるにつれ赤くなりにくくなった人も、部分欠損型と考えられます。そういう人は、正常型の人と同じ量の飲酒でも、発がんの危険性が高い。部分欠損型の人は、正常型の人より10倍食道がんになりやすいという報告もあります。

 特に顔を赤くして飲酒しながら喫煙するのは自殺行為です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。