やはり侮るなかれ…風邪が招く“死に至る病気”

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「風邪は万病のもと」といわれ、昔から侮れない病気として知られている。ところが、「医学が発達したこの時代に、風邪で死ぬことはないだろう」と軽く考えている人は少なくない。これは危険なことだ。風邪は今も死に直結する病気だ。糖尿病専門医で内科医の「しんクリニック」辛浩基院長に聞いた。

 田中和彦さん(仮名、43歳)は昨年末に咳に悩まされ、熱に襲われた。典型的な風邪症状だ。「市販の薬を飲んで安静にしていれば治るだろう」と考えたが、すぐに胃腸炎を合併し、食べ物はおろか飲み物ものどを通らなくなった。下痢・嘔吐に苦しんだ末に意識を失い、気がついたら、病院のベッドの上だった。勤務先で倒れていた田中さんに同僚が気づき、救急車で病院に運んだという。

「発見が遅れていたら、田中さんは亡くなっていたかもしれません。田中さんは重い糖尿病を抱え、毎日インスリン注射を打っていました。しかし、風邪で食事を取れないため、『食後に高血糖を抑えるインスリン注射は必要ない』と考え注射を控えたのです。しかし、これは間違いです。風邪で食べられないときこそ、インスリンはより多く必要になるのです」

■糖尿病ケトアシドーシスで昏睡

 実際、風邪をひいた人は何も食べなくても血糖値が上がる。これは糖尿病治療の常識だ。風邪の原因となるウイルスや細菌が本来、人のインスリン分泌能力を抑制したり、インスリンの効き目を抑える働きをするからだ。

「しかも、食事をしていない田中さんは血液中のブドウ糖を代謝してエネルギーを作ることができません。それをカバーするため、体は血液中のブドウ糖の代わりに体内の脂肪を代謝してエネルギーを作ろうとしますが、その際にできるケトン体が血液中に急激に増えて血液が酸性となります。その結果、田中さんは意識障害や昏睡状態を起こす糖尿病ケトアシドーシスを発症したのです」

 田中さんの場合は、これに発熱や下痢による脱水症状が加わり、血液の濃度が高くなることで脳梗塞や心筋梗塞を起こすリスクもあったという。

 糖尿病の飲み薬を飲んでいる人や糖尿病予備群の人も、一気に重度の糖尿病に進んでしまう。気をつけたい。

「人によっては1型糖尿病を発症することがあります。その原因はハッキリしませんが、免疫細胞が風邪のウイルスや細菌と間違えて、インスリンを作る膵臓の細胞を破壊するからだといわれています。また、市販の風邪薬の中にはインスリンの働きを強めたり、逆にその作用を弱めるものがあるので要注意です」

 風邪の原因となるウイルスには、心臓の筋肉(心筋)にダメージを与えて心筋炎を起こすものがある。そんな状態で心臓に負担のかかる水泳やマラソン、過度の飲酒などをすれば、突然死を招きかねない。

「心筋炎は薬や放射線、妊娠などでもかかりますが、原因のほとんどがウイルスです。コクサッキー、エコー、アデノなどの風邪ウイルスのほか、インフルエンザウイルスが知られています。心筋炎は発熱、頭痛、倦怠感、下痢や腹痛といった風邪症状に加え、血圧が下がるのが特徴です。動悸や胸部の痛み、不整脈などが起きることもあります」

■心筋障害を起こすことも

 ただし、心筋炎の中には症状のないものもある。

 心筋炎の多くは自然回復するが、まれにその後に心臓が拡大し、心臓の動きが低下するといった慢性の心筋障害を起こす人がいるという。

 風邪に代表される呼吸器の感染症は、心臓発作や脳卒中などの発症リスクを2~4倍も増大させるとの英国の研究もある。「風邪だけど大丈夫」なんて考えは早死にのもと。改めた方がいい。

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