しなやかな血管が命を守る

片足が腫れる足の静脈血栓症に気を付けろ

東邦大学佐倉病院の東丸貴信教授
東邦大学佐倉病院の東丸貴信教授(C)日刊ゲンダイ
手術も発症原因のひとつ

 心臓に血液を戻す静脈には皮膚に近いところにある「表在静脈」と深いところにある「深部静脈」があります。

 深部静脈のなかで血液が固まり(凝固)血栓ができることを「深部静脈血栓症」(DVT)といい、その血栓が肺の動脈に詰まる病気が「肺血栓塞栓症」(PE)です。2つを合わせて「静脈血栓塞栓症」と呼びます。

 DVTは、詰まる場所(頚部・上肢静脈、上大静脈、下大静脈、骨盤・下肢静脈)により症状が異なります。

 下肢の静脈が完全に詰まると、血がたまって下肢が腫れます。これが長期間続くと皮膚に潰瘍ができることがあります。

 DVTは、日本で年間1万5000例と推測され、女性にやや多く、40歳以上の中高年の患者さんが目立ちます。その主な原因は①手術(特に整形外科や脳神経外科)、転倒、炎症、および薬品による静脈の内皮障害②長距離飛行や手術・ケガによる血流の停滞③遺伝子の変異、凝固を防ぐプロテインC、Sの遺伝子欠損、抗リン脂質抗体症候群、多血症、避妊ピルやホルモン代替療法、妊娠、がんなどによる血液の凝固亢進です。

 DVTにがんが潜んでいるというと驚かれる方もおられるでしょうが、DVTの約4%に無症状のがんが報告されています。また、整形外科手術では、状況により1~5割程度にDVTが起こることが分かっています。

 急性のDVTでは片側の足のむくみが特徴的です。ただし、膝の裏側のくぼみにある膝窩静脈から上の中枢型(腸骨型、大腿型)と、下の末梢型(下腿型)で症状が異なります。

 中枢型では3大症候である「腫脹」「疼痛」「色調変化」がみられます。症状が重いと疼痛を伴って腫脹しますが、表面の側副血行路が残存しているため、白色調を呈します。

 さらにひどいと、足は虚血、極度の痛み、チアノーゼ(皮膚などが青紫色になる)となります。両方とも、放置しておくと足が腐る可能性が高く、緊急の治療が必要です。DVTの診断には、「Homansテスト」(膝を軽く押さえて足関節を背屈させると、腓腹部に痛みが生じる)や血液「Dダイマー」の上昇が役立ちます。しかし、これらの検査法では必ずしも確定できないため、血管内血流の観察と血管と血栓の直接的な画像観察ができる「超音波検査」が必要です。なかでも血流をカラーで表示できる「ドプラ超音波検査法」は静脈血栓による血管閉塞を調べる標準的検査として普及しています。治療は、血液を固まらせないための抗凝固薬がファーストチョイスで、基本的にはヘパリンの点滴、続いてワルファリンの服薬を行います。

 最近は、直接トロンビン阻害薬(ダビガトラン)および活性化した第Ⅹ凝固因子の阻害薬(エドキサバン、アピキサバン 、リバロキサバン)がより安全な治療薬として使用され始めています。大きな血栓は血栓溶解薬で治療されます。ウロキナーゼや組織プラスミノーゲン活性化因子は血塊を溶解し、ヘパリンのみよりも効果的に静脈炎後症候群を予防すると考えられています。また、カテーテルという細い特殊な管を使用する血管内治療も行われています。これを使って、血栓溶解剤を血栓に注入したり、吸引・破壊などで機械的に血栓を除去する方式もあります。手術が必要なケースはまれですが、血栓溶解薬に無反応の有痛性白股腫または有痛性青股腫には、血栓除去術、筋膜切開術、またはその両方が行われることがあります。

 DVTを予防するには①手術や病気後できるだけ早くベッドから出て動く②4時間以上の長時間移動の際は、定期的に足を動かし血液の循環を良くする③弾性圧迫ストッキングを着用する④水分を取る⑤禁煙する――などが大事です。

東丸貴信

東丸貴信

東京大学医学部卒。東邦大学医療センター佐倉病院臨床生理・循環器センター教授、日赤医療センター循環器科部長などを歴任。血管内治療学会理事、心臓血管内視鏡学会理事、成人病学会理事、脈管学会評議員、世界心臓病会議部会長。日本循環器学会認定専門医、日本内科学会認定・指導医、日本脈管学会専門医、心臓血管内視鏡学会専門医。