当事者たちが明かす「医療のウラ側」

がんウイルス療法の時代がやってくる

 がん細胞のみで増殖する「がん治療用ウイルス」を使って、がんを退治しようとする新たな治療法が始まっているのをご存じでしょうか。

 この「治療用ウイルス」は、がん細胞に感染した後にその中で増殖し、宿主であるがん細胞を殺してしまいます。増殖した「治療用ウイルス」はその後、周囲のがん細胞への感染を繰り返し、そのたびごとにがん細胞を殺していきます。

 一方、正常な細胞に感染しても増殖はせずダメージを与えません。昔からウイルスに感染したがん患者さんのがんが縮小することがしばしば報告されており、ウイルスはがん細胞内で増殖しやすいことがわかっています。この性質を応用したのが「がん治療用ウイルス」なのです。

 実はこの治療法は以前から考えられていましたが、実際に“がん細胞の中だけでよく増殖し、正常細胞では増殖しないウイルス”を作ることができなかったため、治療として用いることができませんでした。しかし、いまは遺伝子工学を使い、「がん治療用ウイルス」となる単純ヘルペスウイルスなどが作れるようになったことで、現実的な治療に近づいたというわけです。

 すでに実験的に脳腫瘍の治療に使われていますが、この新たな治療法は一般のがん細胞だけでなく、がん幹細胞も殺せるということです。これが本当なら、治療後の転移や再発がなくなります。また、手術でどうしても取り切れなかったがんも、この治療法を併用すれば完全に取り除くことができます。

 昨年10月末には、米国食品医薬品局(FDA)が末期の悪性黒色腫治療としてこの新たな治療法を承認し、今後も次々と登場することと思います。手術や放射線、抗がん剤に続く治療法として面白い存在です。