勉強する前にテストを受けると理解力が深まる。不思議なことだが本当だ。なぜこのようなことが起きるのか? 心療内科医師で「本郷赤門前クリニック」の吉田たかよし院長が言う。
「理解したつもりなのに、いざテストになると全然できない人がいます。これは『流暢性の幻想』が起きているからです」
「流暢性」とは情報を適切に素早く処理し出力する能力のこと。その『幻想』というのは、事実や公式、要旨がその場ですぐに思い出せると思い込んでしまうことをいう。
実際は、本番の試験では忘れたり、よく理解できていなくて思い出せなくなることが多い。いわゆる「分かったつもり」になってしまうのだ。
「覚えた直後の復習ですぐに思い出せたことで安心してしまう。本当は理解していないのに、さっさと終わらせることでますます物事の本質が分からなくなる。それが流暢性の幻想です」
この幻想から逃れるためには「覚えているかどうかをテストする」のが大事という。本の一節を暗記したいなら、ただ本を30回読むより、本を見ないで自分でテストしてみて、分からなくなったら本を開けて読む方式を15回程度行うことだ。
つまり、事前テストで理解していないことを解答しようとしてあれこれ推測することで、より問題について注意深く考えるようになる。そのことによって、次に思い出す時、「流暢性の幻想」が排除されるのだ。
しかも、事前テストをやることで、これから勉強する事柄の何が大事なのか、その勘所をあらかじめ知ることができる。それだけ勉強の内容が深まるともいわれている。
ところで吉田院長は、この「事前テスト」が効果を挙げるのは、科目や中身にもよるという。
「たとえば、4月に中学1年生になる小学生が先取りとして、まったくやったことがない2次方程式を事前テストしても、単にできないだけで理解を深める効果は出ません。しかし、歴史や地理、化学など小学生で一度、何らかの形で学んだものから推測がつけられる内容なら、実際に成績アップに役立っています」
推理し、それを答えることで知識が脳の中に確実に定着していくというわけだ。
脳を育てれば健康になれる